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【夢物語】命の仲介人『片桐吉弘』

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男はビルの屋上にいた。
周りは夜の静けさがあり、下を見下ろせば車のヘッドライトが行き交うのが見えるが、車の走行音は、ここまで聞こえてこない。
そうだ、ここは階でいったら28階に相当する屋上だ。


男が屋上に来た理由は、自殺をするためだった。
不倫がバレて妻とは離婚。慰謝料と小学校に上がったばかりの息子の養育費を払い続ける日々。挙げ句の果てに、今日は会社で大規模なリストラが行われ、男も辞めさせられる側の人間になってしまった。
妻も息子も、仕事もない。どれも自分のせいなのだが、何故だか悔しい気持ちでいっぱいだ。


だったらせめて、このビルから飛び降りて、このビルに入っている、自分をクビにした会社に一矢報いてやろう。クビにした社員が当日ビルから飛び降りたとあれば、会社にも何らかの悪影響が出るはず。
男はそう考えて、ビルの上に来た。


男は手すりを乗り越え、ビルの淵に立つ。
覚悟はしていたはずなのに、足がすくみ歯がガチガチと鳴る。


「やっぱりやめようかな…でも生き延びたところで何になる…」


男が躊躇っている最中、ふっと背中に気配を感じた。


別の男が立っていた。真っ黒なスーツにスラッと伸びた背が似合う。年は男とからわらぬ30代前半といったことだろう。
スーツの男は、男に話しかけてきた。


「自殺…怖いですよね。わかりますわかります。もしよろしければ、あなたの命を私に譲ってください。そうすれば、このビルから飛び降りるより、楽に死ねますよ。」


男の頭にははてなマークが浮かんだ。
スーツの男は慌てて懐から名刺を一枚差し出した。


「申し遅れました。私は『片桐吉弘』と申します。命を粗末にしようとしている人の命を、命を欲しがっている人にあげる仲介業を営んでおります。」


男は名刺を受け取り、


「命を粗末に…命をあげる?何を言ってるんですか?あなたは。」


と尋ねた。片桐は答えた。


「具体的に説明しましょう。あなたは、この場で自殺しなければあと53年、つまり85歳まで生きる予定です。あなたが本来生きるはずだった53年を私に譲ってください。この53年を『お金を払ってでも長生きしたい』と考えている方に売るのです。それが私の仕事。」


男は未だに状況が理解できていない。


「片桐さん…でしたね?何故あなたは僕が85歳まで生きることを知ってるんだ?」


片桐は口に人差し指を当てながら答える。


「これだけは秘密です。とある業者から仕入れていると言っておきますが、具体的に言っちゃうと、私が消されちゃうので。」


男はため息をつき、呆れた表情をした。


「まぁ、あなたの言っていることが本当だとしても、僕は、僕をクビにしたこの会社にだけは一矢報いたいんですよ!ここで飛び降りれば翌朝にはニュースになって会社は大騒ぎだ!ざまぁ見ろ!あのバカ社長の焦る顔が目に浮かぶ!
雨季のアフリカに降り注ぐスコールのように滴り落ちる汗もな!」

 

片桐は静かに男に話しかけた。


「人に迷惑かけて死ぬんですか。散々迷惑かける生き方しといて、死んでも迷惑かけるって、あなたなんですか?迷惑から生まれた迷惑息子ですか?」


男は怒り交じりに振り向く。
片桐は続ける。


「役に立てましょうよ、あなたの迷惑ばかりの人生を、最後くらい。安心してください、痛みも何もなく、私があなたから命を貰えば、あなたはパッて消えますから。」


片桐の言葉に男は微笑を浮かべる。


「ああそう、パッて消えるね!散々コケにしやがって!じゃあやってみろよ!出来なきゃあんたも道連れに死んでやるよ!!」


片桐は不気味に口角をあげる。


「では契約成立ですね。毎度ありがとうございました。」


男は消えた。
片桐は屋上の出口へと向かって歩いた。

 

 

 

 

 

 

 


「松坂さーん!奥様、みえましたよ!」


若い女性の看護師の声とともに病室の扉が開いた。
松坂幸雄は今年で68歳となる。定年後すぐに狭心症を起こし、入院。その後も入退院を繰り返していたが、その度に体調は悪化し、いよいよ長期の入院が必要になってしまった。


妻の松坂千尋は幸雄と同じ68歳。高校時代の同級生で、20歳の時に結婚した。以来48年、苦楽をともに過ごしている。
幸雄は申し訳なさでいっぱいだった。若い頃は仕事ばかりで、ろくに千尋を旅行にも連れて行ってやれず、その上仕事を辞めたら入院で世話をかけている。毎日夜の時間に幸雄の元を訪れて、退屈しのぎの本や雑誌を持ってきてくれる。


「迷惑かけてすまないなぁ、毎日毎日。」


幸雄はベッドの上から千尋に話しかける。


「大丈夫ですよ。早く良くなってください。」


千尋は黙々と本を病室の机の上に置く。
それ以降、特に会話はない。50年も一緒にいると、話すこともない。ぎこちない時間が続くが、幸雄としてはこの時間が好きだった。
若い頃、初めてデートした時を思い出すからだった。


「松坂さーん!そろそろ消灯の時間ですよ!」


看護師が病室の扉を開けて声をかけてきた。
千尋は立ち上がり


「じゃあ、また来ますから…」


と言い残し、病室をあとにした。
幸雄は毎日色々な思いが駆け巡る。
特に、何故千尋は同級生なのに自分に敬語を使うのかが毎日気になる。浪人生だと思われているのだろうかと気になってしまう。

 


消灯とは言われたものの、幸雄は枕元の明かりをつけて、さっき千尋が持ってきてくれた本を読んでいた。
時刻が23時を過ぎた頃だった、


「松坂幸雄さんですね?」


病室の隅から男の声が聞こえた。


「誰だ!?」


幸雄は驚いて大きな声を出した。
暗い病室の隅から現れたのはスーツ姿の片桐だった。


「しーっ!大丈夫です、ヒットマンじゃありませんから。むしろ逆です、命を与えに来ました。」


幸雄がナースコールを押そうとしていたため、片桐は光より少し遅いくらいのスピードでナースコールのコードをハサミで切り落とした。
幸雄はまだ驚いている。


「驚かせてすみません。しかしもっと驚きますよ。松坂幸雄さん、あなたは明後日死にます。
持病の狭心症が悪化して、トイレで倒れます。そのまま誰も気がつかず朝に。ということは実質明日死ぬということですね。」


片桐の言葉に幸雄は声を詰まらせながら答えた。


「明後日死ぬ?何なんだ?あんた?何者だ?もしかして死神か…?」


片桐はプッと笑った。


「死神…あはは、こんな世の中にも信心深い方はいらっしゃるんですね…でも、死神か…いやそうです!死神と思っていただけた方がありがたい!あ!申し遅れました、私、片桐吉弘と申します。死神…みたいな仕事をしています。」


片桐は幸雄に名刺を差し出した。幸雄は名刺を恐る恐る受け取り、片桐に問いかけた。


「明後日死ぬというのは…本当なのか?」


片桐はベッドに腰掛けて左手に持っていたカバンを幸雄の膝の上にドンと置き、答えた。


「それは本当です、死神が言うんだから間違いない。そこで相談です。私はいい死神ですから、命を売って差し上げます。長生き出来るんです。このために私は来ました。」


幸雄は顔を落として眉間にしわを寄せた。


「もし本当に長生き出来るとしても…私は7ヶ月も入院していて、さらに入院生活が伸びるだけではないか?妻にも迷惑がかかるし…」


幸雄の言葉に片桐は少し悩んだ。しかしすぐにベッドから立ち上がり幸雄を背にして話を切り出した。


「ではどうでしょう!明日1日だけ元気に過ごせるだけの命を私が売りましょう!寿命は命の力、長距離走のように満遍なく長期間にわたって力を消費することも、短距離走のように短期間で一気に消費することもできます!1ヶ月分の命をつぎ込めば、幸雄さんの体も1日だけ元気になるでしょう!」


演説のような片桐の言葉を聞きながら、幸雄はじっと片桐のカバンを見つめていた。
幸雄は1分ほど黙り、悩んだ末に口を開いた。


「いくらだ?あなたは命を『売る』と言っていたな?命の値段はいくらだ?」


片桐はニヤリと笑いながら幸雄の質問に答えた。


「1時間1000円です。つまり1日だと2万4000円。つまり幸雄さんの場合1ヶ月分ですから…72万円ですね。あっ、1ヶ月31日の月もありますから、31日分にしましょうか。1日分はおまけしますよ。その分元気になれます。」

 

72万という数字は幸雄にとっては安いものだった。片桐は続けた。


「あと1日、元気になって、普段ご迷惑をかけている奥様と最後の1日を楽しみませんか?」


幸雄は少し黙り、片桐に語った。


「カバンの中に財布がある。取ってくれないか?」


片桐はまたニヤリと笑った。


「毎度ありがとうございます…」

 

 

 

 

 

 


「松坂さーん!体温図りますよー!」


翌朝、幸雄の病室を看護師が尋ねた。
しかし幸雄の姿はなかった。


「松坂さーん?松坂さーん?あれ…どこに行ったのかな…?」

 

 

幸雄は朝の表参道を歩いていた。
昨夜まで病床に伏していたとは思えないほど足は軽く、頭は冴え、何より心が高鳴っていた。この高鳴りは狭心症による動機ではない。
気分が高まっているからだった。


片桐に払ったお金で貯金は全て使い切ってしまったため、幸雄は消費者金融でお金を借りた。
使い道はもちろん、今日1日を妻と過ごすため。
最後の1日なのだから、豪華にしてやろうと思い、かなりの額を借りた。
大丈夫。キチンと「死んだ後のことも考えて借りた」から、千尋には迷惑はかからない。

 

幸雄は服を買った。
働いていた時も着たことがない、高価なジャケットにパンツ。そして若さも欲しかったから、とりあえず売っていた高いサングラスとヘッドホンまで買った。
ファッションセンス的に如何なものか気になったが、明日死ぬのだから関係ない。

 

さらに今日のディナーのために、ミシュランで一つ星を獲得した日本料理屋を予約した。
いくらかかるんだ?もう値段なんか見ない。
とにかく千尋がお腹いっぱいになるまで食べさせてあげようと思った。

 

準備万端。これで家に帰ろう。
千尋には何も伝えてないから驚くだろう。
病院にいないことを怒られるかもしれないけれど、明日死ぬんだから関係ない。今日が楽しければそれでいい。むしろ怒られる方が気持ちいいんじゃないかとすら思える。

 

足取り軽く、幸雄は自宅へ向かう。
あと10分で着く。この公園を突っ切れば家まで近道だ。
公園に足を入れた幸雄だったが、そこには想像していなかった光景が目に入った。


千尋が知らない男とベンチに座って楽しく話している。幸雄はそんな2人を背後から見つけた。
男の年齢も、幸雄と千尋と同じくらいだろう。
確かに、若い頃はだいぶイケメンだったように思える風貌の男性だ。


不倫?でもまだわからない。偶然ハトにエサをやりに来た男性が腰掛けていたベンチに座り、ちょっと話しかけていただけかもしれない。
そう思っていた幸雄の期待は、打ち砕かれた。


千尋と男性はベンチから立ち上がり腕を組んでどこかに歩いて行った。
幸雄はキツツキの巣のように口を開け、呆然と千尋の後ろ姿を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

幸雄は千尋を負わなかった。
散々迷惑をかけた妻が、別の男と恋に落ちていたところで、私に責める資格はない。私に魅力がなかったのだ。私はあの男に負けたのだ。
幸雄は前かがみに、千尋が座っていたベンチに腰掛けていた。
そろそろ日が沈む。

 

「女性は前向きですね、どんな時でも。それは良いことなのか悪いことなのか。」


片桐が幸雄の隣に座り込んだ。
幸雄は片桐に語りかけた。


「いいんですよ。これで。妻も…楽しそうでしたし…これで…」


幸雄の頬を二筋の涙が流れる。
片桐はハンカチを幸雄に渡し、話を続けた。


「どうでしょう?あと1日生きて、さっきの男性から奥様を奪い返しに行きますか?今日の夜訪れる死を回避しなければならないので、また1ヶ月分の命をお買い上げ頂く必要がありますが。」


幸雄は首を横に振った。


「もう、良いです…これで私は死にます…でも…ここで死んだら、妻にまた迷惑をかけてしまう…」


片桐はニヤリと笑った。


「では私にあなたの命を譲ってください。残り数時間の命ですが、昨日のあなたのように生きたいと思う人の役に立つでしょう。命を譲っていただければ、あなたはまるで最初からこの世にいなかったかのように、パッと消えますよ。」

 

幸雄は少し黙った。そして口を開いた。

 

「お願い…いたします…」


片桐はスッと立ち上がった。


「では契約成立。毎度ありがとうございました。」

 

幸雄は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

ドンドンドンッ!!!

6畳一間の部屋の、今にも壊れそうな木造の扉が勢いよく叩かれた。ノックとはいえない、もはやサンドバッグを殴ってるかのようだった。
そしてガラガラとガサついた声が部屋の中にまで響き渡った。


「片桐さぁん?いるんでしょ?早く返してくれねぇーとさぁ、こっちも困ってるんだよね。あんたも困ってんのかもしれねーけどさぁ、こっちもボランティアで金貸してるわけじゃねーんだよあぁっ!??」


扉が激しく震える。
部屋の隅では片桐が布団にくるまり扉以上に震えていた。


「…私を借金の連帯保証人にしていたか…印鑑は…病室でカバンから盗まれていたようだ。抜け目のないジジイめ。まだ生かしておくべきだった…」

 

 

 

 

この物語は私が見た夢を元にしたフィクションです。

 

 

 

 

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