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【夢物語】八下駅発『デストロイヤー103号』

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何てこった…
月曜日の朝から大雨だ。
いつも使っている地下鉄はホームどころか出入り口となる階段まで水に浸かってしまっている。入ることすらできない。改札などの電子機器も壊れているんじゃないだろうか。
そして会社に行けるのは何時になるだろう。


最寄駅が同じの同僚Kも立ち往生していた。
私たちは合流し、半ば諦めながらも会社への最短ルートをスマホで検索していた。
もう1人、最寄駅を同じくする会社の先輩Iがいることを思い出した。
おそらくI先輩もどこかにいるはず。
もしかしたら別のルートを見つけているかもしれない。
私たちはそう思い、I先輩に連絡を取った。


全然そんなことはなかった。I先輩も地下鉄が使えず立ち往生していた。
使えない先輩…とは口に出さなかったが、私たちは引き続き別のルートを探した。

 

 

 


検索した結果、「八下(はちした)駅」という駅から乗れば、1度の乗り換えが必要ではあるが、10時半には会社の最寄駅へたどり着けそうだった。


「八下駅」の存在は知っていたが、現在地から歩いて30分も離れている上、地元の人ですら使うことのないローカル線が走っており、私もKも利用したことはない。
けれどこのルートしか使えるルートはない。


「I先輩!見つかりましたよ別ルート!行きますよ!」


私はI先輩に声をかけた。


「いや、俺は地域住民の方々とこの浸水した地下鉄をなんとかする!明日以降も地下鉄が使えない可能性があるからな!お前たちだけで行け!」


I先輩はこれでもかと声を張り上げて私たちに伝えた。
コイツ会社休む気だと私たちは思った。完全にダメな先輩と認定した。

 

 

 

 

 

土砂降りの中を歩くこと30分。
私たちは八下駅に到着した。
ホームは2階にあったが、一見すると古い遊園地のジェットコースターの出発口にしか見えない駅だ。私たちに不安がよぎる。


ICカードは使えないため、切符を買ってホームに着いた。ホームに停車する電車を見て私たちが驚いたのは、正確に言うと電車ではなく蒸気機関車だったからだ。


見るからに怪しいがこの機関車に乗らなければ、会社に来なかったことを明日部長に叱られる。おそらくI先輩は明日、ハムスターなら怒号だけでショック死するんじゃないかってくらいの剣幕で怒られるだろう。
私たちは部長の怒りを避けるためにも何とかして会社に行かなければならない。
休むのと遅刻していくのなら、後者の方が怒りを買わずに済むと思う。


客車の中は現代の電車内と変わらない。車両の両端に仲間椅子が並び、つり革が椅子に沿うように天井からぶら下がっている。
人は数人しか乗っていない。私たちは椅子に座り出発を待った。


いつまで経っても出発しない。
私たちが不安に感じていると、乗務員と思しき男性2名が乗車してきた。乗務員たちは乗客一人一人に話しかけ、何か紙にメモを取り、渡している。
私たちの元にも乗務員がやってきた。


「生年月日は?」


突然の質問に首をかしげる私たち。


「生年月日は?早くしてくれる?発車時刻過ぎちゃうから。」


怒り交じりに急かされ、私たちは各自の青年月日を答えた。


乗務員は紙にメモを取り、私たちに紙を渡した。紙にはこのように書いてあった。


「今日は体調の急激な変化に注意!胃腸薬を持ち歩こう!
あなたのあだ名:ピーピーおじさん」


謎の占い結果とあだ名。
これをすべての乗客に渡しているようだった。
いや、こんなことする暇あるならさっさと発車しろよと私たちは思った。

 

 

 

 

 

それから20分ほど経ってから、蒸気機関車は今にも大破しそうな音と振動をたてながら発車しだした。もはや10時半にも間に合わない。
昼までに会社に着ければ良いくらいだ。


しかも機関車の進むスピードが遅すぎる。
トイザらスで欲しいオモチャがあるコーナーへ急ぐ小学2年生の女の子のトップスピードより遅いくらいだ。もう昼にも間に合わないかもしれない。


その時、ガガッと車内のスピーカーが鳴った。
さっきの乗務員と思しき男のどちらかの声が聞こえる。


「えぇ…本日はご乗車いただき誠にありがとう…お前ほら…名簿つけろ名簿…失礼いたしました、ご乗車誠にありがとうございます。
本日が我らが蒸気機関車『デストロイヤー103号』最後の運行日となります。」


そんな大切な日だったのかよ!と私たちは心の中で驚いた。最後の運行日に乗り合わせるとは、幸運…いや特に幸せではないから関係ないか。アナウンスは続く。


「本日運転いたしますは、おなじみの山田スミレさんです。スミレさんは今年で86歳になられます。デストロイヤー103号が運転開始した1956年よりお一人で60年間運転なさってきました。」


失礼なのはわかっているが、めちゃくちゃ不安すぎる。86歳のおばあちゃんが運転している蒸気機関車なんて聞いたことないぞ。アナウンスは続く。


「ではここで、スミレさんより一言いただきたいと思います。スミレさん、よろしくお願いいたします。」


乗務員の声が消え、すすり泣く声がスピーカーから聞こえる。おそらくスミレさんなるおばあちゃんが泣いているようだ。


「みなさん本日は…ぐすっ…私の最後の運行にお付き合いいただき…ありがとう…ぐすっ…私は60年もこのデストロイヤー103号に時間を費やしました…私の生き甲斐です…夫は30年前に亡くなり…私にはデストロイヤー103号しか残されていません…そして今日がデストロイヤー103号に乗れる最後の日だとすれば…私はこの先何を生き甲斐にすれば良いのでしょう…」


車内に暗いムードが漂う。
スミレさんの演説は続く。


「だから今日は…ふへへ…今日は…老い先短い私の人生という蒸気機関車にご乗車いただきましたこと…へへ…ありがとうなぁ〜愚かな乗客ども!!!お前たちは私と共に地獄に堕ちるんだヨォォォ!!!」


突如蒸気機関車のスピードが上がった。
キキーッと高い音が車内に響く。
スピーカーの奥からゴソゴソと物音が聞こえる。揉めているようだ。


「スミレさん…やめてください…すぐブレーキを…」


乗務員の声がしたがすぐにスミレさんの声でかき消される。


「うるせぇどけぇ!このミュージシャン崩れがぁ!大変お待たせいたしましたぁ〜次はぁ〜地獄ぅ〜地獄ぅ〜!お出口はぁぁぁぁって誰1人として逃すわけねぇだろぉがぁぁぁ!!!」


超高速で駆け抜けていく車窓。
海が見える。山が見える。


そして私はI先輩のことを思い出した。
やはり先輩だけある。長く生きている分、無理やり会社に行こうとしたらこうなることを判断出来ていたのかもしれない。だから言い訳をしてサボることを選んだのかもしれない。
さすが先輩…いや、わかっていたのだとしたら教えてくれたって良いじゃないか。やっぱりダメな先輩だあの人は。


機関車が曲がり角にさしかかる。
先頭車両の方から、悲鳴と思しき高い音と、大きな金属が潰れていくような、低い音が不協和音のように聞こえてくる。
音は私の方に迫ってくる。
でも不思議なことに、部長に怒られるのより恐くない。

 

 

 

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