私の名前はジロギン。

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【怖い話】ファミレスのジャム子さん

 

私の名前はジロギン。

 

先週の土曜日のことである。その日は前日から大学時代の後輩2人(両方とも男)が私の家に泊まりに来ていた。朝まで何だかどうでもいいことを話していた気がするが、眠気でよく覚えていない。

 

朝になり、私たちは朝食を食べに近くのファミレスに行った。

4人用のテーブル席に案内され、私の向かい側に後輩たち2人が座った。その時も確か「アフリカゾウとシロサイが本気で戦ったらどっちが勝つか」みたいな話をしていた気がする。どうでもいいことだが、私はアフリカゾウが勝つと思う。

 

そんな折、後輩たちの背中側にある4人用のテーブル席に女性が一人やってきた。

黒くて腰まである長い髪と大きな白いマスクで顔はほぼ見えない。黒いワンピースを着ていて、肩から黒いポーチを下げている。その女性は後輩を挟んで私と向かい合わせになるように座った。女性が座る前に確認したが、背がすごく高い。180cmくらいありそうだ。さらにハイヒールを履いていたので、もっと大きく見えた。

 

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私たちは朝食セットを頼み、食べ始めた。全員和食派だった。

その5分後くらいに女性の元にも朝食セットが運ばれてきた。女性は洋食派のようで、お皿に食パンが乗っているのが見えた。

後輩たちはその女性のことなど全く気づかずに話していた。まぁ背後にいるから当然だ。私も大きくてちょっと怪しい女性というだけで、別に警戒するほどの人でもなさそうだから、視界に女性が入りながらも後輩たちと話していた。

しかし、その女性の挙動があまりにも珍しく、ついつい見入ってしまった・・・

 

このファミレスは、朝食のパンに塗るイチゴジャムを小さい瓶のままくれるのだが、その女性は瓶に入っているジャムをほぼ全部パンに塗っていた。塗るというより、かけていた。まるで卵かけ御飯のように。洋食なのに和食の表現を持ち出すのはおかしいかもしれないが、本当にそんな感じだった。

 

あれではジャムパンではなくもはやジャムだ。ジャムを食べているに等しい。

私は後輩たちと会話をしながらも、その女性、「ジャム子さん」と呼ぼう、ジャム子さんに目がいってしまった。ジャムおじさんとバタ子さんを兼ね合わせたネーミングなのは気にしないでもらいたい。

ともかく、私はジャム子さんの挙動が気になって気になって仕方なくなってしまった。

 

 

 

ジャム子さんは、なるべく手にジャムがつかないよう両手の指先だけでジャムパンをつかみ、口に運んだ。しかしジャム子さんはマスクをつけている。これでは食べられない。

一度ジャムパンを置いてマスクを外そうとするも、すでに指先にはジャムが付いていて、そのままマスクに触ればマスクが汚れてしまう。ジャム子さんはマスクが汚れるのが嫌だったのか、マスクを触るのもためらっていた。

なんだかちょっとかわいそうになってきた。手伝ってあげたいけれども、それは野暮だろう。私はそのままジャム子さんの様子を見守り続けた。

 

ジャム子さんは再度パンを指先でもち口元に運んだ。

「だからマスクしたままじゃ食べられないって!無理だって!まず指を拭いてマスクを外そうよ!何かマスクを外せない理由があるのか?」

と私が心の中で白熱してきたその時だった、

 

ジャム子さんはパンを皿の上に戻し、ジャムのついた手でポーチの中をガサゴソと探り、一本のハサミを取り出した。

そしてそのハサミで、自分の長い髪をおもむろに横一閃に両断したのだった。

 

そっち!?

髪が邪魔だったの!?

ジャムの塗りすぎとか、マスクとかじゃなくて、髪が邪魔で食べにくかったの!?

 

私はよくわからない感情になっていた。珍しい光景だけれども、朝方のファミレスで女の人が突如髪の毛切り出すなんて、ちょっと怖い。

私の表情から背後で発生した異常事態を察したのか、後輩たちもジャム子さんの存在に気がつき、すでに凝視していた。

 

 

 

結局ジャム子さんは、ジャムパンを食べることなく、ふらふらと立ち上がり、レジの方に向かっていった。

ジャム子さんは何がしたかったのだろうか?それは誰にもわからない。

 

ただ、ジャム子さんが780円の朝食セットに対して1万円札を払いお店を後にした姿は、店への迷惑料払っているかのようで、意外と考え方はちゃんとしている部分があるのではないかなと私に思わせたのだった。

 

ジャム子さんは私が住む家の近所の人のようだから、またどこかで会うかもしれない。

 

 

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(この話はフィクションです)