私は殺された。
でも全然可哀想じゃないと世の中の人は思うだろう。
なぜなら私は多くの人の命を奪ったから、殺されたのだから。
男も女も子供も大人も、みんな夜の道すがら殺してきた。どんな殺し方をしたかな。覚えてないや。それくらい殺した。
そんな私が逆に殺された。
死刑。絞首刑。当然だ。
全然可哀想じゃない。
死んだら人の心はどこに行くのか?
考えたこともなかった。
それを考えたら、今まで命を奪ってきた人の心がどこに行くのかを考えなければならなかったから。それを考えると、殺すのを躊躇ってしまいそうな気がしたから。
死んだら天国か地獄に行く。
そう唱える人が私の周りにもたくさんいたし、そう考えていた。
で、私は人を殺してきたから、悪事をしたわけだから地獄に行くんだと、そう考えていた。
けれど私の心は、今こうして確かに物事を考えている。どこかに存在しているということだろう。
楽しくもないが痛くもない。ということは天国でも地獄でもないのだろう。
まぁどこでもいい。なんだ、人を殺して死んでも、地獄には行かないんじゃないか。
今私は…おそらくベッドの上にいる。
なぜわかる?感覚があるから。
シーツの感触、枕の感触、布団の感触、それらが確実に伝わってくる。
ベッド上には、2人の女の子が寝ていた。
年は10歳くらいだろうか。
1人の女の子は金髪で肌は白い。見るからにお嬢様といったイギリス系の女の子。
もう1人は肌が黒く天然パーマの女の子。
私は…女の子の中にいる。
黒い子の方だ。この子の心に入っている。
でも体は動かない。私にはこの子の体の主導権はないようだ。
私はどうなるのか…ん?なんだろうこの感覚は…どこかで感じたことがある感覚…
そうだ…これは…
憎悪
この感覚に駆られて、私は殺しをしてたなぁ。
見るもの全てが憎かった。何もかも憎かった。
この憎悪を、人を殺すことによって自分の中から追い払う、その快感。この快感こそが私の生きがいだった。
多分この女の子にも、憎悪があるんだ。
その憎悪の対象はすぐにわかった。
隣で眠る白い女の子に対してだった。
黒い女の子は養子か…
身元はわからない。白い女の子の家に養子として迎えられたみたいだ…
でも、ずいぶん荒い扱いを受けてたんだな。
白い子の親のエゴで養子に迎え入れられたのか。養子が取れるほど裕福であることをひけらかすために、黒い子を家に入れた。
あぁ、ご飯の量も全然違うな。
こんなんじゃお腹いっぱいにならないだろう。
何かにつけて怒鳴られるのは黒い子だけだったのか。理不尽なことで怒られたみたいだな。
今日はフルートの演奏会があったのかい。
2人ともフルートを習わせてもらってはいたけれど、白い子はずいぶん高そうなフルートを使ってるな。黒い子のは大分古びてる。音もひどいな。で、白い子の方が高い評価を受けて、今日は一層憎悪に満ちていると。
「あまり見ないで。」
私に話しかけてきたのは、黒い子だった。
正確には黒い子の意識だけが私に話しかけてきたのだろう。
ゴメン、でも私も君の中に入ってしまったからね、君の記憶も感情も、私と共有することになるんだよ。どうやら、隣で寝てる子をだいぶ憎んでるようだね。
「うん、殺したいくらい憎い」
だろうね。じゃあ私が殺してあげようか。なに、簡単だよ、君の体を私に貸してごらん。
今すぐ、この憎悪から解放されるよ。
「でもダメ。あたしがここにいられなくなっちゃう。今のあたしじゃ、1人で生きていけないから。」
そうか…ずいぶん大人だね。
わかった。じゃあ私は君心のもっと奥の方に隠れているよ。でも、いつでも出てくるからね。
さっきも言った通り、あの子を殺したくなったら、私を呼びなさい。
「うん。ありがとう。気が向いたら呼ぶね。」
死んでもまた殺しができる。憎悪をから解放されるあの快感を味わえる。楽しみだ。
もう20年経つが、いまだに私が彼女に呼ばれたことはない。
腹立たしい…私は、憎悪は確かにあるのに、なぜ彼女は人を殺そうとしない。
人を殺すことはこんなにも決心できないものなのか…?私なら、すぐに決心できるというのに…
殺したいのに殺せない。
彼女の中にいることは、私にとって地獄にいることと同じだ。
この物語は私が見た夢を元にしたフィクションです。
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