私の名前はジロギン。

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「野球少年の隠れた才能を引き出す男」になりたい【SS】

 

私の名前はジロギン。

 

自分の将来がお先真っ暗闇なのだと自覚した時、私は現実から目を背けるために早朝徘徊をします。

 

近所の公園などに足を運ぶと、たまに少年野球チームが朝練をしてることがあるのです。

 

私も小学2年生の頃、野球チームに入っていたことがあるので、懐かしく感じてつい足を止めてしまいます。

当時3ヶ月も続かなかったので、熱い思い出とかチームの絆とかはほとんどないんですけどね。

 

そうやって練習の様子をしばらく眺めていると、とある妄想をしてしまいます。

その妄想について、今回はお話ししたいと思います。

 

 

少年野球の練習を20代の男が見ているのは異質

プロ野球チームの練習ではないので、少年野球の練習を眺める人はほとんどいません。

 

いても、少年たちの付き添いでやってきたお父さんお母さんくらい。

年齢的には40〜50代くらいの方が多いですかね。

 

今の私は27歳。

子供がいてもおかしくはない年齢ですが、27歳で小学生のお子さんを持っている方は、割合として少ないのではないかと思います。

 

つまり20代の男が少年野球チームの練習を見ているのは、かなり異質な光景なのではないでしょうか。

 

20代で少年野球を見る人といえば、将来世界で活躍する才能の持ち主を見出そうとしているスカウトマンくらい。

 

もちろん私はスカウトマンでもありません。

過去に野球のルールすらよくわからないままチームを抜けた、ただの子供部屋おじさんです。

 

そんな私ですが、少年たちが野球をする姿を見ていると、「自分が子どもたちの才能を引き出すためにやってきた男」であるような妄想が止まらなくなります。

 

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この妄想がどこかで実現してしまうと、えらいことになりそうです。

それを防ぐためにも、このブログに書き記し供養しようと思いました。

 

「少年の隠れた才能を引き出す男」の妄想

ある日の早朝

公園で練習に励む少年野球チームあり

またその姿を見届ける男・ジロギンあり

 

コーチ
「よぉし!ノック練いくぞー!!ほらみんな声出せ声ー!」

 

少年たち
「はい!」

 

ボールを弾くバットの快音が朝の空に響き渡る

そんな練習の空気を遮るかのように、ジロギンはグラウンドに入った

 

ジロギン
「全員、今すぐこの練習をやめろ!…コーチは誰だ?」

 

コーチ
「私がこのチームのコーチだが…アンタ誰だ?勝手に入ってこられちゃ練習の邪魔なんだよ!」

 

ドスッ

 鈍い音をあげ、ジロギンの拳がコーチのみぞおちに突き刺さる

 

コーチ
「き、貴様…何を…」

 

その場に倒れ込むコーチ

 

ジロギン
「アンタは指導者として悪くない。だがこの子たちにとっては不十分だ…朝早くご苦労。しばらく二度寝しているがいい」

 

キャッチャーの少年
「コ、コーチ!」

 

ジロギン
「この通り、コーチはお疲れで寝てしまった。ということで、オレが代理のコーチを務める。
今から言う守備位置につけ。レフトを守ってたキミ、ピッチャーの子と交代だ」

 

レフトの少年
「オ、オレが…ピッチャー?」

 

ジロギン
 「そうだ。そして今からオレと1打席勝負をしてもらう。
オレから三振をとれればキミの勝ち。キミをこのチームの正式なピッチャーにしてもらうようコーチに頼んでやろう。
だが、もしオレの出塁を許してしまったらキミの負け。その時点でこのチームをやめてもらう」

 

セカンドの少年
「なんだって!?そんな理不尽な!」

 

ショートの少年
「そうだよ!こいつはオレたちの中じゃ一番下手くそだけど、うちは9人ぴったりしかいないから、1人抜けただけで試合に出られなくなっちゃう!」

 

ジロギン
「黙れ小僧ども!世の中ってのは理不尽の連続なんだ。
キミたちのコーチを見てみろ。彼は理不尽に殴られてそこで伸びている。
今この瞬間、このグラウンドは将来キミたちが生きねばならない社会の縮図となったのだ」

 

サードの少年
「そんな…」

 

レフトの少年
「…わかった、やるよ!でも約束はちゃんと守ってよ、おじさん」

 

センターの少年
「おい正気か?こんなヤベー奴の挑戦なんて受ける必要ないぜ!」

 

レフトの少年
「いいんだ。不安かもしれないけど、ここは任せてほしい。コーチの仇もとってやる」

 

ジロギン
(いい目をしてやがる…獲物を狙うキツネのような目だ…思い出すぜ、オレも小学生の頃、こんな目をした同級生にいじめられてたっけな)

「よし、マウンドに立て!それからキミとキミ、キャッチャーと審判をやってくれ」

 

キャッチャーの少年&ファーストの少年
「は、はい!」

 

 ーーーーー

 

1打席勝負開始

マウンドに立つレフトの少年

バッターボックスで迎え撃つジロギン

他の少年たちはグラウンドの外から見守る

 

ジロギン
(さて、最初の一球は…)

 

レフトの少年が振りかぶる

  

ズバンッ

ボールがキャッチャーミットに吸い込まれた

 

審判の少年(ファーストの少年)
「ストラ〜イク!!」

 

セカンドの少年
「…す、スゲェ速ぇ!!ど真ん中決まったぞ!」

 

ピッチャーだった少年
「あいつ、あんな球投げられたのかよ…こんな隠れた才能があったなんて」

 

ライトの少年
「才能?いや多分それだけじゃないぜ!オレたちの知らないところで自主練してたんだ!」

 

ジロギン
(ふん!ストレート…115キロは出てたな。小学生にしては上出来だ。
しかも、実力未知数のオレにいきなりど真ん中で勝負してくるとは…自分の球に自信を持っている証。
やはりオレの見込みは正しかったか。この子もすごいが、それを見抜いたオレが一番すごい)

 

2球目をの投球に入るレフトの少年

 

ジロギン
(ストレートに自信があるのはけっこう…だがその自信が裏目にでる!
もう一度ストレートで来るつもりだろ?スタンドまで運んでやるぜ、キミが守っていたレフトスタンドへな!)

 

ズバンッ

ジロギンのバットが空を切る

 

審判の少年
「ストラ〜イク!」

 

ジロギン
(なんだと…?今のは…)

 

セカンドの少年
「あ、あれはスライダー!?変化球もできたのか!」

 

ショートの少年
「しかもすごい切れ味だったぜ…大人が投げてるみたいだ」

 

ジロギン
「なるほど…裏をかいて変化球で勝負してきたか。考え方は悪くない。
だが、もうそのスライダーは投げないほうがいいだろう」

 

センターの少年
「どういうこと…?」

 

ショートの少年
「オレ、聞いたことがあるよ。まだ体が出来上がっていない小学生の時なんかに変化球を投げすぎると、肩を壊すことがあるって」

 

ピッチャーの少年
「しかも、少年野球の試合では変化球が禁止されている場合も多い…
今回は正式な試合じゃないからいいとして、実戦じゃ使い物にならないぜ」

 

ライトの少年
「あのジロギンとかいうおっさん…それをわかっていて指摘したのか」

 

ジロギン
(なんか外野の少年たちが解説してくれている…
正直よく知らんし、勝ちたいから変化球投げられないようプレッシャーをかけただけなんだけど、そういうことにしておこう。
こういう運も、勝負に必要な実力なのだ…)

 

レフトの少年
「確かに変化球は負担も大きい。そして試合では使えない…
でもオレは、まずこの勝負に勝ってチームに貢献できるようになりたい!
そのためには、どんな手だって使ってやる」

 

サードの少年
「あいつ…見知らぬおっさんとの戦いの中で成長してやがる!まるでエースの風格だ!」

 

ピッチャーの少年
(もしあいつが勝ったらオレはピッチャー降板だろうな…
でもなぜだろう…あいつを応援してしまっている自分がいる)

 

ジロギン
「次はどうする少年!?さぁ、オレの首を獲ってみろ!キミの投げるその白球でな!」

 

振りかぶるレフトの少年

 

ズバンッ!

 キャッチャーミットに勢いよくボールが突き刺さる

 

セカンドの少年
「あれはシュート!?」

 

センターの少年
「決まったぁ!この勝負、あいつの勝ちだ!」

 

審判の少年
「ストラ〜イ」

 

ジロギン
「ボール!!!」

 

キャッチャーの少年
「えっ!?」

 

レフトの少年
「!?」

 

ジロギン
「惜しかったな…ボール2つ分ストライクゾーンを外れてたぞ」

 

審判の少年
「いや…今のストライクですよ、だって」

 

ジロギン
「おいおいおいおい審判のキミィ〜…今のがストライクって、どこに目をつけてるんだね?どう見てもボールだろう。
渋谷にいる野球経験者100人にアンケートをとったら100人がボールと答えるぞ。キミはこのチームで何を学んできたんだ?」

 

審判の少年
「うっ…ボ、ボール…」

 

ショートの少年
「あいつきたねぇ!ジャッジにいちゃもんつけて、フォアボールを狙うつもりだぜ!」

 

ライトの少年
「子どもに圧力をかけるなんて、クズ中のクズだ」

 

セカンドの少年
「冥府の鎖につながれろ!クソジジイ!」

 

ジロギン
(ふんっ!せいぜい喚いているがいい…これが大人の野球だ。
キミたちが大人になっても野球を続けるなら、こうやって審判の判定に文句をつけて揺さぶりをかけてくる選手にも出くわすだろう。
そんな状況でも、これまで通りのプレーができるか?それが一流と二流の分かれ道だ)

 

レフトの少年は投げ続ける

 

ズバンッ

 

ジロギン
「ボール!」

 

スバンッ

 

ジロギン
「これもボール!」

 

センターの少年
「クソォ…全部ストライクなのに…」

 

ジロギン
「ツーストライク、スリーボール!さぁ追い込まれたな少年!次の1球で勝負が決まるぜ!
ボールが恐けりゃ、ど真ん中に投げてくることだな!ご自慢のストレートをよぉ!」

 

サードの少年
「1球もバットに当たってないくせに、挑発だけは一丁前なジジイだ!」

 

ショートの少年
「オレ、あんな大人には絶対なりたくない!そういう意味でとても勉強になっている」

 

ジロギン
(もうこれで変化球は投げられねぇはず…ストレートは確かに速いが、狙いを絞れば打てない球じゃねぇ!変化球ならまたボールにしてオレの勝ち!
お前は詰んだのだ、少年!!!!)

 

レフトの少年
「…ねぇおじさん。野球ってさ、追い込まれてからが楽しいよね?」

 

セカンドの少年
「あいつ…この状況で」

 

ライトの少年
「笑ってやがる…!」

 

レフトの少年
「お望み通り、ストレート行くよ!」

 

レフトの少年が振りかぶる

 

ジロギン
(馬鹿め!手玉だぜ!)

 

ズバンッ!

ミットにボールが収まる音を最後に、一瞬の静寂がグラウンド全体を包んだ

 

審判の少年
「……ストラ〜イク!」

 

ジロギンのバットは球にかすることすらなく、完全に回った

 

少年たち
「や、やった〜!あいつが勝った!!!」

 

レフトの少年
「ふぅ…危なかった」

 

ジロギン
(今まで投げた球の中で、最後の1球が一番速かったか…

130キロ…いや190キロは出てただろう。そういうことにしておこう。

そうじゃないと、20歳近く年齢差のある小学生を朝っぱらから煽りに煽って負けたオレの精神とプライドが折れてしまう…)

 

少年たちがレフトの少年のもとに集まってくる

 

セカンドの少年
「やったな!」

 

センターの少年
「感動したよ!お前のこと見直したぜ!」

 

ショートの少年
「もうお前を下手だなんて言えないな!チームでナンバーワンの実力者だ!」

 

サードの少年
「ってことは、一番下手なのはオレか?」

 

盛り上がる少年たちに歩み寄るジロギン

 

ジロギン

「いい勝負だった。オレもこんなに必死に戦ったのは久しぶりだ。
目の前の壁に立ち向かう勇気を、キミたちからもらえた気がするよ。ありがとう。
これを機に、再就職という戦いにも挑んでみることにした。これからハローワークに行ってくる。
次の試合、勝てるといいな…」

 

立ち去るジロギン

 

キャッチャーの少年
「あいつ…仕事してなかったのか」

 

レフトの少年
「オレたちは夏休みだけど、平日の朝からこんなことできる大人なんて、まず仕事してないでしょ」

 

コーチ
「よくやったな、みんな!」

 

少年たち
「コーチ!生きてたんですね!」

 

コーチ
「うむ。じつは3球目を投げてたあたりから気絶したふりをして見ていたんだ。
しかし素晴らしい投球だった!こんな逸材を眠らせていたとは私も耄碌したな…頭の下がる思いだよ」

 

レフトの少年
「コーチ…」

 

コーチ
「今日からお前はレフトの少年ではない、ピッチャーの少年になってもらうぞ」

 

レフトの少年→ピッチャーの少年
「はい!コーチ!」

 

ピッチャーの少年→レフトの少年
(お前が勝ったことでオレはレフトの少年になった。でも心から祝福したい…おめでとう。
これからお前の後ろはしっかりオレが守ってやる!ま、お前が打たれることなんて、ほとんどないだろうけどな)

 

コーチ
「…これまでよりチームに一体感が生まれ、全員が成長できた感じがするな。
あのジロギンという男…無職であること以外正体はわからなかったが、私たちが気づかなかった大切なモノをもたらしてくれたようだ。
全員、感謝の意を込めて、礼!」

 

少年
「はい!ありがとうございました!」

 

コーチ
「でも念の為、警察には通報しておこう!よし!練習再開だ!」

 

おしまい