私の名前はジロギン。

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【ヒトコワ】使えなかった取材ネタ

私の名前はジロギン。

 

今回紹介するのは、小山 亮二(こやま りょうじ:仮名)さんという男性が体験した話。

十数年前、小山さんがテレビ番組の制作会社でAD(アシスタントディレクター)として働いていた時のエピソード。

 

使えなかった取材ネタ

当時、小山さんが担当していた番組の一つに「極貧生活を送る人々の家を有名人が突撃する」というものがあった。同じようなコンセプトの人気番組が他局で放送されており、それを参考に制作した番組で、地方局で深夜にひっそりと放送していた。

 

「突撃」と銘打っているものの、有名人をいきなり一般の人の家に向かわせるわけにはいかない。撮影の段取りなどを家主と相談する必要もあるため、事前にロケハン(ロケーション・ハンティングの略:撮影前の下見や画角の調整、設備の確認など)を行う。ロケハンは裏方であるディレクターやADの仕事だ。

 

番組に寄せられた手紙の中から、企画として面白くなりそうなお宅にアポを取り、取材する。番組の人気は芳しくなく、月に10件もお便りが届けばいい方。なるべく面白そうなお宅に絞って効率良くロケハンをしたかったが、選り好みできる状況ではなかったため、お便りをくれた人にはとりあえずアポを取っていた。

 

小山さんは、番組の放送開始から打ち切りになるまでの1年半で、100件以上のお宅を訪問した。その中には、事情によって番組では使われなかったものも含まれる。そんな「お蔵入り」してしまったお宅の中に、とても印象に残っているものがあるという。

 

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そのお便りの内容は、テレビで使うネタとしては弱かった。貧乏な暮らしをしているという30代前半の佐久間(さくま)という女性からの手紙で、大まかな暮らしぶりが書かれていた。

 

・物を買う時は100均しか使わない

・食料品は夜に割引のシールが貼られてから買う

・業務用スーパーのパスタを週3で食べている

・家に大量のぬいぐるみがあるが全て貰い物

・部屋の掃除はせず、消臭スプレーを撒くだけ

 

本来なら取材すらしないだろうが、それでは放送するネタがなくなってしまう。余裕がなかった制作チームは、佐久間さんにもアポを取ることにした。当時一番下っ端だった小山さんが、手紙に記載されたメールアドレスへ取材したい旨を連絡。数時間後に返信があり、了承をもらえた。

 

1週間後の夕方、前に2件のロケハンを済ませ、最後に佐久間さんの家へと車で向かった。

 

お便りにあった住所に到着。かなり大きい団地だった。団地は家賃が安めだと聞く。しかし、これまで取材した家はどこもオンボロアパートで、見るからに極貧というのがわかる住まいだった。出演者がいかにボロボロな建物に住んでいるかも、コンテンツとしては重要だ。団地というだけで、それなりにいい暮らしが送れているように視聴者は受け取るだろう。

 

ディレクターも「ここは期待できそうにないな」とこぼしていた。それでも実際に足を運べば何か強烈なネタが手に入るかもしれない。わずかな期待を持って、ディレクターと小山さんは、佐久間さんの部屋へと向かった。

 

406号室。表札には「佐久間」と書かれている。

 

ディレクターがインターホンを押すと、間髪を入れずに玄関のドアが空いた。まるで家主は小山さんたちが来るタイミングをわかっていて、ドアの前で待機していたかのようだった。廊下を歩く足音で察知したのだろう。

 

ドアにはチェーンがかかっており、数センチ空いた隙間から女性の顔が半分ほど見えた。長い黒髪はベタついており、何日も風呂に入っていない様子。顔色は青白く、何も言わず、眼球だけを動かしてディレクターと小山さんを交互にギョロギョロと見ていた。背は170cmほどだろうか、女性としては長身である。

 

怪しげな女性の雰囲気に、少し恐怖心を抱いた小山さん。ディレクターはキャリアが長いということもあるのか、動じていないようだった。

 

「先日連絡した、〇〇株式会社の者です。番組制作にあたり、佐久間さんのご自宅の取材に参りました。」

 

ディレクターが笑顔で女性に話しかける。女性は返事をしない。

 

10秒ほど経過しただろうか。突然、女性は大きく口を開け、

 

あ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"

あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"

あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"

 

と低いうめき声をあげると、バタンッとドアを閉めた。

 

異様な光景に、小山さんの背筋は凍った。まるで幽霊じゃないか。でも確かにドアの向こう側に生きている女性がいた。見間違いではない。

 

これにはディレクターも肝を冷やした様子。もう一度インターホンを押すことはなく「撤収するぞ」と呟き、団地を後にした。

 

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一般視聴者からお便りを募ると、イタズラやデマ情報が必ず混ざっている。この一件以外にもイタズラまがいのお便りがいくつかあった。

 

しかし小山さんが担当した中で、佐久間と名乗る女性の家を訪れた時ほどゾッとした取材はなかった、と語ってくれた。

※ご本人や関係者に配慮し、内容を一部変更しています。