私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、裁判傍聴のレポートなどを書いている趣味ブログです!

【短編小説】友達のお母さんが作ったごはんを酷評する少年

ボクのなまえは、みぎしま わたる。8さいの小学2年生。

いまは、なつ休み中。

 

きょうから1しゅうかん、友だちの「まさきくん」の家におとまりすることになった。

まさきくんとは1年生のとき同じクラスになってから、ずっとなかよし。

学校がおわったら、いつもいっしょにゲームをしたり、自てん車をこいだり、『ドラゴンボール』の再ほうそうを見たりしている。

 

まさきくんの家はボクの家とちがって、マンションだ。

ちょっとせまいし、上にすんでる人の足音がきこえてくることもあるけど、まさきくんは「どこにいても家ぞくのかおが見えるから安心する」といっている。

でもボクはやっぱりボクの家がすきだ。3かいだて広いし、ボクのへやもあるし、ペットのジェリー・B(トイプードル・5さい・メス)をあそばせられるくらい広いにわもある。

まさきくんの家は、1しゅうかんくらいならたえられるけど、1年すめと言われたら、はっきょうしてしまうかもしれない。

けど、まさきくんはたくさんゲームをもっているから、せまい家でもあきることはない。

 

19:35

 

「ただいま〜」

 

リビングでゲームをし、テレビがめんにくぎづけになっているボクたちのうしろから、女の人の声がきこえた。

ふりかえると、まさきくんのお母さんがいた。

しごとからかえってきたみたい。

 

まさきくんのお母さんはボクのお母さんより10さいいじょうわかくて、まだ30さいくらい。

ほかのクラスメイトのお母さんたちよりもわかい。

 

まさきくんのお父さんとお母さんは、2人ともしごとをしている。

お父さんのしごとはきいたことがないけど、お母さんは薬きょくではたらいているらしい。

だからまさきくんはいつも、よるまでひとりで家にいる。

ボクの家はお母さんがずっと家にいるけど、まさきくんはそうじゃないから、たいへんそうだ。

 

まさきくんのお母さん「わたるくん、いらっしゃい!ごめんね遅くなっちゃって!今から夜ご飯作るからね!」

 

わたる「ありがとうございます!おせわになります!」

 

まさきくんのお母さん「そんなにかしこまらなくていいよ!自分の家だと思ってね!でも『お世話になります』なんて言葉知ってるの、すごいね〜!」

 

まさきくんのお母さんは、たぶん小さいころからびじんでモテモテだったと思う。

8さいのボクでも「もし同じクラスにこんな女子がいたら、すきになってたかもなぁ」と思うくらいかわいくて、あかるくて、いつもわらっている。

まさきくんのお母さんを見ていると、ボクのオチ●チ●ンがむずかゆくなってくる。なぜだろう?

 

でもボクのお母さんは、家でまさきくんのお母さんのわる口をよく言っている。

同じクラスの、ともはるくんのお母さんとでんわしているときも、わる口を言っていた。

もしかしたら、まさきくんのお母さんのことをすきじゃないのかもしれない。「しっと」ってやつだろうか。

でもボクはまさきくんのお母さんがすきだ。なんでこんなかわいい人のわる口を言うのか、りかいに苦しむ。

 

まさきくんのお母さん「お父さん、あと1時間くらいで帰ってくるらしいから、そしたらみんなで夜ごはんにしましょう」

 

まさきくん「お母さん、わたるくんはキュウリきらいだから、キュウリ出さないでね」

 

わたる「ちょっとぉ言わないでよぉ〜」

 

まさきくん「だって、きゅうしょくのキュウリいつも食べなくて、先生におこられてるじゃん!」

 

まさきくんのお母さん「あら、そうなの?好き嫌いはダメよ〜!キュウリを食べないと、ゾンビに内臓食べられちゃうよ〜」

 

まさきくん「いみ分かんねーし!」

 

まさきくんのお母さんは、かわいらしいえがおをボクたちにむけると、キッチンへ行き、りょうりをはじめた。

ボクたちはゲームをしながら、夜ごはんができるのをまった。

 

20:38

 

「わたるくんの話はまさきからよく聞いてるよ。かけっこが得意なんだって?」

 

まさきくんのお父さん。

としは、まさきくんのお母さんより少し上だと思う。

まさきくんのお父さんとあうのははじめてで、ちょっときんちょうした。

でも、やさしそうな人で安心した。イスにすわっていっしょにおはなししているうちに、きんちょうしなくなってきた。

 

まさきくんのお母さん「お待たせ〜!ごはんできたよ〜!」

 

まさきくんのお母さんが、りょうりののったお皿をつぎつぎテーブルの上にはこんでくる。夜ごはんはエビチリとサラダ、白ごはんにみそしるだ。

 

まさきくんのお母さん「今日はわたるくんが来てるから、奮発して、エビはブラックタイガーにしちゃいました〜!」

 

まさきくんのお父さん「豪勢だなぁ!わたるくん、ブラックタイガーなんてなかなか食べられるものじゃないよ!食べたことないでしょ?」

 

わたる「はい!」

 

と、こたえたけど、ボクの家でつくるエビチリはいつもブラックタイガーだとお母さんからきいている。

たぶん16回くらい食べたことがある。

 

まさきくんのお父さん「みんなお腹空いてるだろ?遅くまで待ってくれてありがとね。それじゃあ食べよう!いただきます!」

 

まさきくんのお父さんのことばにつづいて、ボクも大きな声で「いただきます」と言った。

友だちの家でごはんをたべるのなんてはじめてだから、テンションが上がる。

こんなに大きな声を出したのは、うぶ声いらいだ。

 

ボクはサラダ→エビチリ→白ごはん→エビチリ→みそしる→白ごはんと、はしをつけた。

 

まさきくんのお母さん「どう?わたるくん、おいしい?お口に合うといいんだけど……?」

 

わたる「そうですね……エビチリの味が少し変といいますか、調味料に何かおかしなものを使いました?味に違和感がありますね。家ごとに味付けが違うのは承知の上ですが、そんな類の違いではない、エビチリという概念が崩壊しかけるような、レシピに誤りがあるとしか思えない根本的な味の違いを感じます」

 

まさきくんのお母さん「えっ……す、すごいねぇ〜わたるくん!そんな味の違いまでわかるなんて、大人だね〜!」

 

わたる「最初はごく僅かな違和感だったのですが、噛めば噛むほどその違和感が大きくなりますね。今は違和感が不快感に変わっています。より直接的な言葉で表現するなら『まずい』『吐き出したくなる』『金輪際、味わいたくない』。味噌汁も、味噌の量が多い。何だか、味噌を増やして味を誤魔化しているように感じます。塩分過多ですよこれ。こんな料理を毎食食べさせられているとしたら、ご主人や息子さんが不憫でならない」

 

まさきくん「……」

 

まさきくんのお父さん「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃないかな?ほら、サラダはどう?おいしいよ!」

 

わたる「サラダは生の野菜を切って盛り付けるだけなので、奥様の料理の技量がほぼ関係しません。余計な手間を加えなければ美味しいのは当然です。農家の人とドレッシングを作った人の努力の結晶が、サラダの美味しさの全てです。奥様の力ではない」

 

まさきくんのお父さん「……わたるくん、ちょっと言葉が過ぎるかな……」

 

わたる「ごはんの炊き具合も甘い。米に芯が残っている。最近の炊飯器なら誰が使っても美味しく炊けると思うのですが、どうやって炊いたか教えてもらっていいですか?」

 

まさきくんのお父さん「いい加減にしろっ!!!」

 

まさきくんのお父さんが、おこったかおでテーブルをドンッとたたいた。

 

まさきくんのお父さん「どういう教育を受けているか知らないが、とにかく不愉快だ。こんな空気でおいしくごはんが食べられるわけがない。悪いけど、わたるくん、もう帰ってもらえるかな。夜遅いから、オレがキミの家まで送っていくよ。それから、もう二度とウチには来ないでくれ」

 

ボクは、にもつをまとめて、まさきくんのお父さんといっしょに家に帰ることになった。

げんかんまで見おくりにきてくれたまさきくんのお母さんの、少しなみだ目になったかおがいんしょうにのこった。

やっぱりかわいかった。おまたがムズムズした。

 

ーーーーーーーーー

 

わたるの食べ残した料理をゴミ箱に捨てる、まさきの母。

スプーンを使い、皿から白飯やエビチリを剥がしていく。

料理を捨てる手が、どんどん力強くなっていく。

スプーンと皿が擦れ合う音が次第に大きくなり、背後で食事を続けているまさきの耳にも届いた。

不安そうな顔で母の背中を見つめるまさき。母の表情は見えなかったが、鬼のような形相になっていることは背後からでも分かった。

 

親が親なら子も子だ。

まさきの母は、わたるの母と折り合いが悪かった。

薬局での仕事は朝から夜まで続くため、まさきの母はPTAの集まりなどにほとんど参加できていない。

親たちの間で役割分担が決まっているようだが、まさきの母は何も任されていない。他の親が負担してくれているのだろう。

罪悪感を覚えてたまに参加すれば、PTAの会長であるわたるの母から嫌味を言われ、他の親たちからも白い目で見られる。

まさきの母にとって親同士の関係は大きなストレスになっていた。が、実の息子であるまさきにはもちろん、仕事で多忙な夫にも相談できずにいた。

 

まさきの母は料理を捨てる手を止め、まさきに聞こえないよう呟く。

 

まさきの母「あのガキ……少量の薬でも味が変わったのを感じ取ったか……少しずつ盛るなんて回りくどいことせず、最初から致死量を盛るべきだった」

 

<完>