スコアが3桁を超える常識はずれのタイブレークを何度も経験してきた、氷帝のキング・跡部景吾様。
あえて持久戦を選択する跡部様のプレースタイルから、読者も氷帝の仲間たちも「跡部様は守備的なプレーを得意としている」と思ってきました。
一方で、氷帝の榊監督いわく跡部様は相手を平伏させるためにゲーム感覚で持久戦をやっていただけに過ぎず、本来のテニスは超攻撃型とのこと。
ですが跡部様は『新テニス王子様』になってからも、格上の高校生や海外中学生相手に持久戦を仕掛けています。
はたして、榊監督の跡部様に対する評価は正しいのでしょうか。考えていきます。
守備的なプレーによる持久戦が持ち味だと思われていた跡部様
跡部様のベストマッチといえば、関東大会の青学戦シングルス1でしょう。この試合、跡部様は手塚部長が過去に怪我をした左ひじをかばって左肩に負担をかけていることを見抜き、肩を破壊する作戦に出ます。
その作戦こそが持久戦。跡部様はあえて決め球を打たずに試合時間を引き延ばし、手塚部長の肩に負担をかけ続けたのでした。
結果、手塚部長は敗北した上、肩を壊して長期離脱を余儀なくされることに。
この試合の描写から「跡部様は持久戦を得意としている」と多くの読者が認識したことでしょう。というより『テニスの王子様』では、跡部様の公式試合がこの試合と全国大会のリョーマ戦しか描かれていなので、判断材料が少ないんですよね。だから読者が「跡部様=守備的なプレーによる持久戦が持ち味」という印象を持つのは自然だと思います。
しかし、同じような印象を持っていたのは読者だけではなかった様子。全国大会でリョーマと戦う跡部様を見た氷帝のチームメイトたちは「跡部のテニスってあんなに攻撃的だったか?」と疑問を感じていました。作中描写外でこれまでに跡部様の試合を見てきたであろう彼らでさえ、跡部様のテニスは持久戦が主体だと思っていたようです。
また、かつて跡部様と試合をした立海大の真田くんは、鉄壁の守備技「山」を駆使したそう。全国大会前に跡部様が立海大に乗り込んできた際も、真田くんは「山」で圧倒していました。
真田くんは相手の得意なプレースタイルに対し、あえて同じスタイルの技をぶつけて勝利する真っ向勝負を信念にしています。ということは、実際に試合をした真田くんとしても、跡部様は守備を得意としている認識だったのでしょう。
王者立海大のNo.2である真田くんが相手なら、跡部様といえどゲーム感覚で戦うわけにはいかなかったはず。真田くんと全力で戦う方法として、守備的なプレーを選んでいた可能性が高いと思われます。
榊監督「跡部の本来のテニスは超攻撃型」は本当なのか?
氷帝メンバーたちの認識や真田くんの戦い方などを踏まえると、跡部様のプレースタイルはやはり守備的な持久戦型のように思えます。
それでも榊監督の評価では、跡部様の本来のテニスは超攻撃型とのこと。
氷帝の日吉くんのプレーに違和感を覚え、演武テニスを開花させた榊監督の目が節穴なわけがないとは思いますが……監督の跡部様に対する評価は正しいのか、考えていきましょう。
相手の弱点を突くこと=テニスにおける攻撃
跡部様のテニスに対する氷帝チームメイトたちの認識を、作中のセリフからより正確に引用すると、
鉄壁の守備で持久戦にもつれ込ませ相手の弱点を突き崩し…肉体的そして精神的にも相手に敗北の2文字与える
とのこと。
やはり「跡部様のテニスは守備的なプレーによる持久戦型」と認識しているように思ええます。しかし私は「相手の弱点を突き崩し」という部分に注目したい!この「弱点を突く」というのは、テニスにおいて攻撃と考えるべきでしょう。
例えば先述の手塚部長との一戦。あえて必殺技を使わずラリーをし続け持久戦を仕掛けた跡部様ですが、それは手塚部長の弱点が肩にあったから。ギャラリーからすると攻撃をしない守備的なテニスをしているように見えるかもしれませんが、手塚部長からすると肩を破壊するためにじわじわと負担をかけ続けられるという、これ以上ないほど厄介な強力な攻撃を受け続けていたのです。
つまり、守備的なプレーも相手によっては攻撃になり得るということ。手塚部長との一戦ではプレーこそ守備的に見えたものの、跡部様は相手選手を攻撃することをずっと念頭に置いていたと考えるべきではないでしょうか。だからこそ榊監督は、跡部様のテニスは超攻撃型だと評価していたと考えられそうです。
跡部様「30分もあれば俺様は誰にだって勝てる」
関東大会で手塚部長と対戦した跡部様は、頭の中で「30分もあれば俺様は誰にだって勝てる」と発言しています。1セットマッチとはいえ30分で終わる試合は、おそらくワンサイドゲーム。強い方の選手がサーブやリターン、3球目攻撃で強打しまくり、それらの攻撃がうまく決まって大体30分以内に終わるという感じでしょう。
少なくとも、30分という時間では相手の体力を消耗させる持久戦にならないと思われます。
「30分もあれば俺様は誰にだって勝てる」という発言から、跡部様自身「ガチで攻めまくれば短時間で試合を終わらせられる」と考えていると予想。つまり、「もし本気で相手を倒しにいくのであれば攻撃的なプレーを選択する」という考えが、跡部様の中にあるということではないでしょうか。
全国大会のリョーマ戦を見て、「氷帝の勝利を優先し、跡部様は本来の超攻撃的なプレーを選択している」と分析していた榊監督。しっかり跡部様の心理、そしてプレーの本質を見抜いていたと考えられます。
跡部様の必殺技はどれも攻撃的
跡部様が使う必殺技は、どれも超攻撃的です。
例えば、スマッシュで相手の手首を狙ってラケットを弾き飛ばし、2打目のスマッシュを決める「破滅への〜」シリーズは、確実にポイントを取るための攻撃的な技。
「氷の世界」「跡部王国」は、相手の死角(絶対死角)を見抜木、ラリーをせずに一撃で決めるための技。
「タンホイザーサーブ」「氷の皇帝(エンペラー)」「絶対零度の世界(アブソリュートゼロ)」はエースを奪うための一撃必殺ビッグサーブ。
このように、跡部様の必殺技は明らかに守備や持久戦のためのものではありません。もし本当に跡部様が守備的なテニスを得意とするなら、「手塚ゾーン」や「山(詳細不明)」のような技を発案していたことでしょう。
『新テニスの王子様』では攻め切って勝つ余裕がなかった
『テニスの王子様』の描写だけなら、跡部様はあえて持久戦を選んでいたと考えられなくもありません。
しかし『新テニスの王子様』では格上相手にも相変わらず持久戦をやっている跡部様。本来のプレースタイルが超攻撃的型なら、格上の高校生や他国の中学生には速攻を仕掛けたほうがいいのでは……?と思ってしまいます。
一方で、こう考えることもできそうです。
跡部様の攻撃力をもってしても持久戦になってしまうくらい『新テニスの王子様』で跡部様が戦った相手とは実力が拮抗していたと。つまり『新テニスの王子様』の跡部様は遊び感覚で持久戦をやっていたわけではなく、攻めまくりながら仕方なく持久戦をやっていた。跡部様としても、できることなら一瞬で試合を決めたかったものの、そう易々と決めさせてくれる選手はもう試合に出場していない、ということではないでしょうか。
跡部様がただ攻めまくるだけなら、攻撃力で相手に上回られて何もできず負けていたかもしれません。しかし『テニスの王子様』で人智を超えた持久戦を経験してきたからこそ、跡部様は粘り強く戦い続けることができ、ギリギリで勝利をもぎ取れた……
うまいこと跡部様の攻撃力と持久力がハイブリッドした形が、今の跡部様のプレースタイルと考えられそうです。
やはり榊監督が分析した跡部様の「超攻撃型プレースタイル」は変わっていない……!
守備は攻撃になり得る
「相手の弱点を突くこと=テニスにおける攻撃」の項目でも書いた通り、時と場合によっては守備的なプレーが攻撃になることもあります。
体に負担をかけながらプレーしていた手塚部長に長いラリーを仕掛けた跡部様は、守備に見せかけた攻撃を展開していました。相手の弱点を狙った立派な攻撃です。
他にも、例えば強打が多いけれどミスも多い選手が相手なら、自分から攻撃的なプレーはせずにあえてラリーをつなげることでミスを誘う。これも守備に近い攻撃といえるでしょう。
テニスにおいて守備と攻撃の境界はあいまいと言いますか、表裏一体だと思います。実際にプロテニスで王者となったジョコビッチ選手は「世界一の守備力の持ち主」と評価されることが多いです。しかし彼の強みは、広い守備範囲で素早く打球に追いつき、相手のショットの威力を利用したカウンターによる攻撃。どこにボールを打たれても追いつく瞬発力やコートカバーリング力といった守備に必要な要素を、攻撃にもしっかり応用しているのです。
テニスでは、守備力の高さは攻撃力の高さに直結する。このように考えると、守備力が高い跡部様のプレーの本質は超攻撃型という榊監督の評価は、間違っていないというのが私の意見です。