私の名前はジロギン。
今から約17年前。私が8歳だった時の話だ。
私には2歳年下の妹が1人いる。
私と妹は、昔から「二段ベッド」にあこがれていた。
我が家はそんなに裕福ではなかったので、二段ベッドを買うのはお金の面でかなりの負担になったと思う。
無理を承知で親に頼み、私の誕生日プレゼントということで、二段ベッドを買ってもらった。
だいぶ年季の入った、中古の二段ベッドだった。
大喜びの私と妹。
しかし、この二段ベッドが不思議な体験のきっかけになった。
あのベッドには何かがいたんだ。何かはわからないけど、確かに何かが。
父が二段ベッドを組み立て終わった。
大きさは天井ぎりぎり。上の段に乗ったら、子供といえど立ち上がれるスペースはない。
上半身を起こすのが精一杯だった。
かなり窮屈だったが、もちろん私も妹も、上の段で寝たかった。
ジ「オレが上の段だ!お前は下の段で眠れよこの愚民!」
妹「うちが上で寝るんだよ!下克上だ!下克上!」
と、二段ベッドの上の段に登って言い争っていた。
ジ「わかった、後で決めよう。にしてもけっこう高いな〜」
妹「高ぇ〜!」
私と妹はベッドの上から床を見下ろした。
高さは2mないくらいだろうが、子供としては高かった。
床に私たちの頭の影が3つ映った。
・・・ん?3つ?
ジ「あのさ、床の影見てみ?・・・3つない?」
妹「え?なんで3つあんの?・・・こわ・・・」
ジ「絶対何かいるじゃん!オレたちの間に何かいるじゃん!」
妹「あーやっぱうち、下でいいわ!愚民らしく下で眠るわー!下々の人間が、上の段で寝るのは頭が高いですからねー!」
ジ「いやオレが下でいいし!お兄ちゃんだからガマンするしー!お前の下克上成功だよ!本能寺の変以来の大型下克上成功だよー!」
私たちは、上の段を譲りあった。
絶対に何かが、上の段にいる。私たち以外の、目に見えない何かが・・・
その夜
じゃんけんの結果、私が上の段で寝ることになった。
ジ「くそが!もし霊的なものが出たら、下段に浸透するくらいおしっこ漏らしてやるからな!」
妹「それもそれでこえーわ!!」
22時ごろ家の電気を消し、家族全員寝りについた。
20分もしないうちに下の段から妹のいびきが聞こえた。
しかし私は、1時間経っても2時間経っても眠れなかった。
ひたすら目をつむり続けた。
ようやく、うとうとしてきた時だった。
何かが聞こえる・・・
「う・・・え・・・上の・・・だ・・・んが・・・いいよぉ・・・」
かすれた女の声だった。
直視できないが、私のことを見ている気配がする。
たぶん霊。
たぶんじゃなく、ほぼ霊。
いや、霊でファイナルアンサー。
どうやら上の段で寝たいらしい。
上へ上へと、登りたい意欲をアピールしてくる。
向上心は素晴らしいが、できればそれはベッドではなく会社などで見せて欲しいものだ。
「う・・・え・・・の・・・だん・・・が・・・いい・・・よぉ・・・」
上の段がいい・・・ということは、こいつは今、下の段にいる霊ということのようだ。
ベッドに登った時に見えた影は、上の段にいる私たちの間にいたこいつの影ではなく、下の段からこいつが顔を出していて、できた影だったということだろう。
こいつは下の段から見ていたのだろう、上から下を覗く私たちを。
ということは、この霊の直接の被害を受けているのは私ではなく、下のだんで寝ている妹の可能性が高い。
私は勇気を振り絞り、声のする方を薄目で見た。
「上の・・・だ・・・んが・・・いいよぉ・・・」
白目をむいた妹が、こちらを覗いていた。
おそらくだが、霊に取り憑かれているようだった。
「う・・・え・・・のだん・・・が・・・いいよぉ・・・」
このままでは妹の意識は解放されないかもしれない。
除霊なんてことはできないが、言葉を喋る霊であれば、こちらの言葉も理解できるはず。
私は霊と対話を試みた。
ジ「おい、幽霊よ。今オレはおしっこがしたい。」
霊「・・・」
ジ「もしお前がこれ以上オレを脅せば、オレは膀胱にためた尿をここに撒き散らす、100%な。そう、お前が寝たいと思っている上の段にだ。」
霊「それ・・・だけは・・・おしっこ・・・だけは・・・無理・・・」
ジ「ならば妹を解放し、二度とオレたちの目の前に現れるな。上で寝たいなら・・・天国へ行け。二段ベッドの上の段より、もっと高いところで眠れるぞ。」
霊「天・・・国・・・上へ・・・上へ・・・」
妹の体はベッドの下の段へと戻っていった。
私の言葉が通じたようだ。うまいこと幽霊の心をコントロールすることができた。
その途端、私は眠りへと落ちてしまった。
翌朝
妹「うわぁ!クサっ!つーか濡れてる!」
妹の声で目を覚ました。
どうやら私の漏らしたおしっこが、下の段にまで沁みてしまっていたらしい。
幽霊をコントロールできても、膀胱まではコントロールできなかったようだ。