私の名前はジロギン。
昨日は会社の健康診断の日だった。年1回あるのだが、私は毎回血圧測定で測り直しになる。
今回も持ち前の高血圧がさく裂し、20代とは思えない好成績をマークしてしまったため、
「はぁ~い、緊張しないでくださいねぇ。もう1回測りましょうねぇ。」
と看護師さんに言われてしまった。看護師さんが可愛いとより緊張して血圧が上がってしまう…おっと失礼!何度測っても私は高血圧なのだ。もうそういう人間なのだ。
健康診断における私の問題点はいつも血圧測定にあるため、測る前はちょっと嫌な気分になるのだが、今回に関しては別の問題があった。
健康診断のプログラムには「採血」も含まれる。注射器で血を取るやつだ。
私は昨年入院なども経験し、ことあるごとに採血をしてきたので「注射が嫌だよぉ」なんてことは言わない。24ちゃいだし。
しかし今回の採血に関しては恐怖してしまった。
採血をしていたのは女性の看護師さんだった。年齢は40歳前後といったところだろうか。
基本的に看護師さんは白いナース服(今はこう言わないのかな?)を着ている。その看護師さんも白い服を着ていたのだが、私の前の人が採決されている時に遠目に看護師さんを見ていたところ、「白い服に所々薄い赤色の模様が入っている」のに気が付いた。
私の視力は右1.5、左1.2でそこそこいい方なのだが、その模様が何の模様なのかまではわからなかった。
そうなると、あの模様は何かは看護師さんを取り巻く情報から判断しなければならない。
赤い模様・・・所々・・・採血・・・はっ!
まちがいない!あれは返り血だ!採血した患者の返り血だ!私の中で看護師さんの服の赤い模様は返り血だと判断した!
多くの患者さんの採血をする中で浴びた返り血に違いない!
私は途端に恐ろしくなってきてしまった。
もしかしたら、あの看護師さんに注射器からあふれる程、血を取られ、
看護師さん
「この病院、毎日忙しくてですね。手術手術&手術でシャワーを浴びる暇もないんです。
でも女性としてはシャワーも浴びられないなんて、とても嫌なことじゃないですか。だからこういう採血の時に浴びるようにしてるんですよ。そう、血のシャワーをねっ!!!」
という感じでピューピューと私の腕から噴き出す血を浴び始めるじゃあないかと、恐ろしくなってきてしまった。
ついち私の番が回ってきた。私は緊張と恐怖の狭間みたいな顔をして看護師さんの前に座った。
左腕の袖をまくり、差し出す。看護師さんが注射器を取り出す。
その時だった、看護師さんが
「○×※△□・・・」
と何かをつぶやいていた。
間違いない。この看護師さん、私で血のシャワーをやるつもりだ。
楽しみなんだ。血のシャワーをやりたくて楽しみ過ぎてつい何かをつぶやいてしまっているんだ。
恐らく、
看護師さん
「あぁ・・・もうすぐシャワーを浴びられる・・・こいつは高血圧みたいだから、勢いの良いシャワーになるだろうなぁ・・・」
的なことをつぶやいているのだろう!覚悟しなければ、全身の血液がなくなることも覚悟しなければ!!!
・・・まぁそんなわけがなくて。
看護師さんは、
「ゆっくり力を抜いて、リラックスしててね。あら、24歳!若いわねぇ。」
みたいなことを言ってくれていた。
血のシャワーを浴びたがっているクレイジーな人はなどでは全然なく、むしろすごく優しい人だった。
採血にあたり緊張しているであろう患者を安心させる一言を言ってくれていたのだ。
さらに看護師さんの服もよく見たら、赤い模様は返り血ではなくただの「薔薇の模様」だった。なんだ、全然大丈夫だったじゃないか。
注射器が刺さる痛みは、私の幻を覚ます痛みとなり、先入観をもちすぎていることを反省させる痛みでもあった。
幻は人間の恐れが見せるものだということがよく分かる経験だった。
採血は何度もしてきたので怖くないと思っていたはずが、実は心の奥底では恐れていたのだろう。
怖いのは注射の痛みではない。「注射器の針が折れて、体を巡って心臓に突き刺さったらどうしよう」とか「注射器から血管に空気が入り、血流が止まってしまったらどうしよう」とかいうような不安から、恐怖を感じてしまったのだろう。
その結果、「白衣の天使」とも呼ぶべき看護師さんを「赤衣の悪魔」と錯覚してしまった。
何が血のシャワーだ。そんなもの浴びる人間はまずいないだろうに。
恐怖を持ち過ぎた結果、誤った評価をしてしまうとは、私の心にスキがある証拠だ。
「恐怖を乗り越え、まやかしを振り払ってこそ、真実が見える。」
そういう事を学んだ健康診断になった。