私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、裁判傍聴のレポートなどを書いている趣味ブログです!

【短編小説】強豪ガールズバーキャストを紹介される新人

店長「今日は体験入店の初日で、いろいろ説明することがあったから早く来てもらってけど、これからは1時間遅くて大丈夫だから」

 

坊主頭で40歳くらい、スーツを着た男性店長が、セナに出勤の手順やお店のルールなどを教え終えた。

セナは大学2年生。20歳になりお酒が解禁されたため、アルバイトとしてガールズバー『フェイント・オーケストラ』で働くことにした。

過去に一度だけ父親に連れられて行ったガールズバー。当時は未成年でお酒も飲めず、初めて行く場所で緊張し、ろくに話もできなかったが、キャストの女性が気を遣っていろいろと質問してくれた。その姿に憧れ、自分もガールズバーのキャストになりたいと夢見てきたのだ。

セナという源氏名は、そのとき接客してくれたキャストと同じ名前である。

 

店長「セナちゃんには期待しているよ。最初は大変だろうけど、ウチは頑張ってる子ほど稼いでるから」

 

セナ「はい!精一杯頑張ります!」

 

店長「いい意気込みだねぇ!指名No.1を目指しちゃおう!……といっても、ウチはスゴイ子が多いからねぇ、しばらくは下積みが続くと思うけど」

 

セナ「そうですよね……いきなり1位は難しいかもですが、少しでも店の売上に貢献します!」

 

店長「キャストは同僚であると同時に、客を奪い合い、売上を競うライバルでもあるからね。そうだ!そろそろ女の子たちが出勤してくる頃だから、何人か紹介するよ!」

 

セナ「お願いします!先輩たちがどんな人で、どうやって売上を出しているか知りたいです!」

 

店の入口の扉が開き、茶髪の女性が入店。見た目からして、セナと同じくらいの年齢だろう。

 

店長「まず、あの子はミズホ。セナちゃんと同じ大学生……いや元大学生。東大の文学部に通っていたんだけど、ウチでの仕事が楽しくなり、キャストに専念するため先月中退したんだよね。東大を中退することを知った両親は怒り、ミズホと三日三晩の殺し合いをしたそうだよ。結果、ミズホが勝って、両親の首を店に持ってきたときは驚いたと同時に、彼女の覚悟を感じたね」

 

セナ「東大を中退して両親と殺し合い!?考えられない世界だ……」

 

直後、再び入口の扉が開き、服の上からでも分かるくらい胸の大きな女性が入ってきた。

 

店長「彼女はリリナ。バストサイズはVカップ。彼女の胸の谷間は『圧縮時空』と呼ばれ、挟まれた物には通常では考えられないほどの圧力がかかる。以前、彼女の谷間に野生のコーカサスオオカブトムシが入り込んだことがあったのだが、3秒後にはただの黒い粉になっていた。圧力で粉微塵になっちまったのさ」

 

セナ「圧縮時空!?そんな必殺技まで持っているキャストがいるなんて……私も開発した方がいいのかな?必殺技……」

 

店長「そう焦る必要はないよ。働いているうちに、自分なりの技が見つかるさ」

 

3人目の女性が店に入ってきた。セナはその女性の爪の長さに驚愕した。

 

店長「彼女の爪は長さ42cm。ちょっとした脇差だ。名前はホナミ。あの爪を使い、夜道で襲ってきた暴漢の両目を突き刺し、抉り出したことがある。最近ここら辺で話題の通り魔『裏道のカマイタチ』とはホナミのことさ。だが真の脅威は爪に塗られた毒。0.1mgでクジラとかを動けなくさせる毒が塗られてる。かすっただであの世行きだな」

 

セナ「なんて物騒な……でも夜遅くまで働く仕事だし、自衛の手段は用意しておくべきですかね……?」

 

店長「基本的にキャストは車で送迎するけど、念のためあった方がいいかもね。ま、ここまでに紹介した子たちは、売上ランキングでも下位勢。そろそろ売上上位の四天王たちが出勤する頃合いだよ」

 

セナ「四天王!?」

 

入口の扉が開き、いかにも高級そうな毛皮のコートに、ルイヴィトンのカバンを持った女性が入ってきた。

 

店長「アイツは売上四天王の1人、アリス。数百円しか入らないドリンクのキックバックだけで大型ベンツを買った猛者だ。そんな偉業を成せるのは、ヤツの尋常じゃない酒の強さ。1年前、アリスが試飲のできるビール工場見学に行った際、貯蔵タンクのビール全てを飲み干し、生産が追いつかず工場の出荷を一時停止に追い込んだ。小学生の頃から理科室に忍び込んではアルコールランプの中身を一気飲みし、肝臓を鍛えてきたらしい。真性の酒飲みだ」

 

セナ「小学生の頃から……!なんて周到さだ!」

 

店長「しかし彼女の売上はトータルで4位。いわゆる四天王最弱」

 

セナ「ベンツが買えるほどのキックバックを得ても最弱!?他の四天王はどうなってるんですか!?」

 

2分後にまた別の女性が入ってきた。すでに男性客を連れている。顔の赤い酔っ払った、50代くらいのビジネスパーソン風の男性。「同伴」の客だろう。

店が始まる前に客と会い、一緒に来店することを「同伴」という。

 

店長「『同伴の女王』こと、ミサキ。ヤツが出勤するときは、必ず客を同伴させている。時には複数の男性を一緒に連れてくることがあるほど、ミサキとの同伴を希望する客は多い。その理由は、ミサキのコミュ力の高さだろう。ある客はついミサキと話し込んでしまい、会社を1週間無断欠勤してクビになったそうだ。時間を忘れさせるミサキの話術に魅了された者は数知れず、日本人の5人に1人がミサキと同伴している計算になる。彼女は売上四天王3番手」

 

セナ「会社をクビにさせるほどのコミュ力!?私も身につけたいけど、想像がつかない……」

 

入口の扉が開き、黒髪ロングの女性が入ってきた。セナは彼女の顔に見覚えがある。

 

セナ「あれ……?あの人どこかで見た気がします!」

 

店長「そうだろう。最近売り出し中のグラビアアイドル、桜川ヨーコ。ウチの店ではテルミという名で働いている」

 

セナ「そうだ!桜川ヨーコ!テレビとか、YouTubeとかでよく見ます!えっ!?芸能人も働いてるんですか!?」

 

店長「その通り。知名度でいえば、テルミはウチのキャストの中でも抜群。全国からテルミ目当てにやって来る客がいるほどだ。『ガチで会えるグラビアアイドル』としてネットでも話題さ。そんな売れっ子グラビアアイドルであるテルミは、本来ならウチで働く必要などない。でもなぜ働いているかというと、本人曰く『自分は片手間でガールズバーで働いてもトップクラスになれることを証明したいから』だそうだ。正直、テルミの接客は良いとは言えない。横柄、傲慢、芸能人の悪いところを煮詰めたような態度だが、それでも売上四天王No.2」

 

セナ「後でサインもらっておこう」

 

店長「そして四天王最後の1人は出勤することがない、バーチャルキャスト。いわゆるVtuberの神無月ミミホ。週に2回ライブ配信でファンを集め、オンラインで接客をするという新しいガールズバーの形を作り出した。彼女の出す売上は、ファンのスーパーチャット。ファンはアバターしか見えないため正体は一切不明。しかしその正体は何を隠そう、このオレさ!変声期を使って女性Vtuberを演じているのさ!」

 

セナ「うわぁ一番嫌なやつ!Vtuberの中の人がオッサンのパターン!でも喜んでいるファンもいるわけで、完全にダメだと否定もできない……」

 

店長「とまぁ、こんな強豪キャストが勢揃いのウチでNo.1を目指すのは容易なことじゃない。まずはセナちゃんができることを1つずつこなしていくことが大切だよ」

 

セナ「は、はい!あまり自信はないですが、頑張ります!」

 

こうしてセナの体験入店初日が始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

6時間後、閉店。

キャスト控え室

 

セナは客と真摯に向き合い、話を聞き、自分のことも話し、精一杯接客をした。

拙い部分は多かったと思うが、いま出せる全力で臨んだことは間違いない。

 

店長「では、今日の売上ランキングを発表します!各自がより上位を目指すための目標にしてください」

 

店長が壁にかけられたホワイトボードに、キャストごとの売上ランキングを書いていく。

それを取り囲むように見守るキャストたち。

 

1位:セナ(売上65万2800円)

2位:神無月ミミホ(売上2万2000円)

3位:テルミ(売上1万4800円)

4位:ミサキ(売上8300円)

5位:アリス(売上6400円)

6位:ホナミ(売上3900円)

7位:リリナ(売上1800円)

8位:ミズホ(売上600円)

 

店長「1位は体験入店のセナちゃん!客からは『ようやくまともな子が入ってくれた』との意見多数!圧倒的No.1だっ!」

 

セナ「さっき紹介されたヤツら全然ダメダメなんかいっ!」

 

<完>