私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、裁判傍聴のレポートなどを書いている趣味ブログです!

【短編小説】ロンドン忍者鬼行

イギリス・ロンドンのとある公園で早朝、利用者により女性の惨殺死体が発見された。

死体は左肩から右下腹部にかけて大きく切り裂かれ、臓器の一部が露出。頭部は切断され持ち去られていた。同様の手口による、16人目の犠牲者だ。


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ロンドン西部郊外にある「ジョナサン流忍者スクール」道場内。

黒い忍び装束を身にまとい、肩まである白髪のロングヘアをオールバックにした老爺が、畳の上にあぐらをかいている。背後の壁には墨で大きく「Ninjyaになろう」と書かれた掛け軸。

 

老爺の目の前に、どこからともなく人影が現れ、立膝をつく。黒い頭巾で目元以外の頭を覆い、老爺と同じ忍び装束を着た男。

 

男「師匠、お呼びでしょうか?」

 

師匠「おお、ピーター。すまんな急に。ユニバーシティのほうはどうじゃ?」

 

ピーター「単位を取り終え、あとは半年後の卒業を待つだけです」

 

師匠「そうか、じゃあヒマじゃろ?卒業前の大学生ほどヒマな人間はこの世にいまい。一つ任務を頼みたいんじゃ」

 

ピーター「それは一人前の忍者になるために必要な任務でしょうか?」

 

師匠「そうじゃ」

 

ピーター「一体どんな要件でしょう?」

 

師匠「最近ロンドンで騒ぎになっている、連続殺人事件を知っているな?」

 

ピーター「民間人を16人殺害した人物が、今も逃走中というあの事件ですね」

 

師匠「昨日、Xのタイムラインを見ていたら、その犯人と思しき男を撮影した動画が出回っていてな。そやつは、日本刀で人を無差別に斬り殺しまくっているようなんじゃ」

 

ピーター「師匠、Xやってるんですね」

 

師匠「当然。情報収集は忍者の基本じゃ。で、本題じゃが、この男を警察より先に探し出して始末してほしい。それから、男が使っていた日本刀を回収して来るのじゃ」

 

ピーター「……なぜでしょうか?これまでにも暗殺任務は経験しましたが、ターゲットはもっと大物でした。こんな通り魔、警察に任せておけば良いのでは?あるいは、政府など大きな組織からの依頼なのでしょうか?」

 

師匠「いや違う。今回は完全にワシの私情じゃ。実は、その動画に映っていた殺人鬼らしき男と面識があってな。1週間ほど前、うちに借金の取り立てに来たチンピラだったんじゃ。間違いない」

 

ピーター「借金取りですか?」

 

師匠「でも金がなかったもんで、40年前ワシがジャパンで忍術修行していたころ、ワシの師匠の家から盗んできた『名刀・乳房(ちちふさ)』を借金の肩代わりに渡してな。売れば30万ポンドは下らないと言ったら、男は喜んで持っていきおった」

 

ピーター「はぁ……」

 

師匠「しかしワシは肝心なことを忘れていてだな。名刀・乳房は呪われた刀、日本語で言うと『妖刀』じゃったんじゃ。5分も触っていると、刀身に取り憑いた|悪霊《ゴースト》が持ち主の体を操って人間の血を求める。そういう刀じゃった……だから誰にも渡すまいと思っていたのに。時間の流れとは恐ろしいものじゃな……」

 

ピーター「つまり、その殺人鬼は呪いの刀に操られていると?」

 

師匠「可能性が高い。そして操られた人間を元に戻す方法はない。殺す以外はな。それに、もしあの刀がまた別の人間の手に渡れば、まるでインフルエンザが感染するみたいにその者も取り憑かれ、惨劇が繰り返されるじゃろう……だからお前に任務として依頼する。あの刀を取り戻して来るのじゃ」

 

ピーター「……お言葉ですが、師匠が自らやられてはどうです?事件の原因は、完全に師匠にありますし……」

 

師匠「いや、原因はお前じゃ!ピーター!」

 

ピーター「What(何ですって)!?なぜボクが!?」

 

師匠「うちの忍者スクールが借金まみれなのは、お前しか受講生がいないからじゃ!何度も言ったよな?友達を勧誘して入学させたら、5人ごとに手裏剣を1枚プレゼントすると!それをやらなかったお前のせいで、いつまでたっても借金が返せず、あの刀を渡すことになったんじゃ!」

 

ピーター「言いがかりですよ!そんな労力と報酬が釣り合っていないこと真剣にやるわけないじゃないですか!」

 

師匠「黙れクソガキ!身寄りのなかったお前にメシと寝床を提供し、忍者としてのイロハを授けた恩を忘れたのか!?今こそその恩を返せ!連続殺人鬼を探して殺し、刀を持って帰って来い!あっ、刀は直接触るなよ。触るなら軍手か何かを付けてからにしろ」

 

ピーター「Mother Fu⚫︎ker(クソ野郎が)!……御意……」

 

ピーターは、つむじ風のように道場から姿を消した。


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PM16:34

ある民家の屋根の上。

1本の日本刀を背負い、スマートフォンをいじるピーター。

 

ピーター「これまで犯行が起きた16カ所を地図上にまとめると、ロンドンの北部に集中しているな。犯行時刻は20時から明け方4時。場所は公園が多い……殺人鬼は人目を避けるため夜に行動し、人気の少ない場所で殺しをしているのだろう。では日中はどこにいる?刀を持った人間が明るい時間帯に街をうろついていたら、すぐに発見されるだろう……潜伏先を探し、待ち伏せするか」

 

ピーターは大きくジャンプし、屋根から屋根へと次々に飛び移った。


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PM19:53

ある公園の噴水そば。2人の男性警官が会話をしている。一人は細身で、一人は肥満体。対極のような体つきをした男たちだ。

 

細身の警官「マジで帰りてぇ……」

 

肥満な警官B「サムライ殺人鬼がいる街をパトロールだなんて、俺らの給料に見合ってねぇよな〜。警官も命を落としてるってのによ〜」

 

細身の警官「まったくだ……早く辞めれば良かったこんな仕事」

 

肥満な警官「しかも捜査本部の見立てだと、例のサイコ野郎はこの北部に潜伏してるらしいぜ〜。マジで俺らの喉元に、殺人鬼のブレードが突き立てられてるって感じだな〜」

 

細身の警官「夜の公園で無差別に人を襲う殺人鬼なんて、映画でしか見たことねぇよ……」

 

肥満な警官「あと北部で捜索してないのは、あの森だけだな〜。俺もあそこにいるんじゃねぇかなって思ってる」

 

細身の警官「あそこ昼間でも薄暗いからなぁ……殺人鬼が潜むのにはうってつけだ……」

 

肥満な警官「明日の朝、捜索隊が入るらしいぜ〜。特殊部隊も同行するそうだから、さすがの殺人鬼もお縄だな〜」

 

細身の警官「今夜がヤマって感じか……おお神よ、私の命を守りたまえ……」

 

肥満な警官 「祈りはいいからよ〜、さっさとパトロール終わらせようぜ〜」

 

2人の警官は噴水から離れ、公園内の闇に消えていく。

 

 

ピーター「ブワッはぁっ……はぁ……はぁ……師匠直伝の『|水遁《すいとん》の術』で、話の内容は聞かせてもらった……はぁ……あの森って、たぶんここから南西にある森のことだよな?捜索隊に先回りして、殺人鬼を見つけないと」


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PM23:45

南西の森

ピーターは森の中を走り回り、ある仕掛けを施した。両手の指10本から伸びるワイヤーを森中に張り巡らせる。ワイヤーに何かが引っ掛かれば、振動がピーターの指に伝わり、引っかかった者がいる大まかな場所を特定できる「|蜘蛛之巣《くものす》の術」。ピーターが師匠から教わった忍術の一つだ。

森は子供の足でも1時間半あれば1周できてしまう程度の狭さ。競走馬と同じ速度で走れるピーターなら、殺人鬼が森のどこでワイヤーに引っ掛かろうが、数分以内にたどり着ける。

 


AM4:23

巨木にもたれかかり、振動を待つピーター。そのとき、右薬指に結んだワイヤーが震えた。何者かがワイヤーに引っかかったのだ。

ピーターはハヤブサのように駆け出し、ワイヤーを辿る。1分ほど走った先、アロハシャツとデニムを身につけた、金髪の中年男性が木々の間に佇んでいた。男の右手には、わずかな明かりを反射する細長い金属。そして左手で、先ほどピーターが話を盗み聞きしていた細身の警官の切断した頭部を鷲掴みにしている。間違いなくターゲットの殺人鬼だ。

ピーターは背中の刀を鞘から抜き、地面を蹴って大きく飛び上がると、上空から縦一直線に刀を振り下ろし、男に斬りかかった。男は左手に持った頭で、ピーターの斬撃を受け止める。刃が頭の半分ほどまでめり込んだ。

 

男「汝も我が渇きを満たす贄(にえ)となるか?」

 

ピーター「日本語?師匠の言った通り、刀に取り憑いた悪霊に乗っ取られている様だな」

 

ピーターは頭にめり込んだ刃を引き抜き、男から7歩下がる。そして刀を両手で構え直し、目にも止まらぬスピードで男に突っ込んでいった。

 

男は右手だけで刀を振り、ピーターの斬撃を受け止める。立て続けにあらゆる角度から斬りかかるピーターだったが、男はすべて、片手で握った刀で捌ききった。

 

ピーターはバック宙をしながら男から距離を取る。

 

男「強き者……我が贄にふさわしき者……」

 

ピーター「ボクの剣術がただの借金取りに遅れをとるはずがない。刀に取り憑いた悪霊の力か。師匠は言ってなかったけどあの悪霊、ジャパンの戦国時代か何かに実戦経験を積みまくったサムライの霊だろう」

 

男は左手を一瞬だけ背中側に回すと、まっすぐ前に伸ばした。手には大型の自動式拳銃が握られている。銃声が3回鳴り響く。ピーターはギリギリでかわし木の影に隠れたが、1発が右肩をかすめた。

 

男「我が秘技……デザートイーグルなり……」

 

ピーター「デザートイーグルを使うサムライなんて聞いたことないぞ!Fu⚫︎K(クソが)!現代社会に馴染みやがって!」

 

男はピーターが隠れる木に向かって繰り返し発砲を続ける。弾丸により木がどんどん抉れる。

 

ピーター「この木はもう保たないな」

 

弾が切れ、銃撃が止んだ。この瞬間を見逃さず、ピーターは木の影を飛び出し、他の木陰へと移動する。ピーターの移動速度は、常人では肉眼で捉えられないほど速い。しかし男はゆっくりとした足取りで、確実にピーターを追跡した。右肩から腕を伝い、地面に流れる血が道標となり、男をピーターの元へ案内してしまう。それでもピーターは男からなるべく距離を置くために、また別の木陰へ移動した。

 

男「逃走は無意味……汝の命は我が手に……」

 

ピーター「もう少し、もう少し引きつけろ……」

 

男がピーターの隠れる木の目の前に立った。

 

ピーター「This is it(これで決める)!『金縛りの術』!」

 

ピーターは左手を大きく横に薙いだ。指先から伸びたワイヤーが一気に収縮し、男の体に絡みつく。男は大の字の状態で、地面からから30cmほど宙に浮いたまま、糸が絡まった操り人形のように動きを止めた。絡まったワイヤーにより、男は宙吊りになった。

ピーターは木の影から出て、男の目前に立つ。

 

ピーター「お命、頂戴いたす」

 

刀を振り下ろし、男の首を切断した。

 

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AM10:15

ある港

ピーターと師匠が、海に向かって横並びに立っている。

軍手をはめたピーターは、両腕で名刀・乳房を抱えていた。鞘に収められた乳房には、レンガが1つ、縄でくくり付けられている。

 

師匠「本当に沈めてしまうのか?その刀は、売れば30万ポンドは下らないのに……必死の思いで、ワシの師から盗み出してきたのに……」

 

ピーター「師匠、この刀は誰の手にも触れさせてはいけません。人の手が届かないところに葬るべきです」

 

師匠「でも触らなければ悪霊に取り憑かれることもないし、軍手をつけていれば触っても大丈夫じゃし、別に深海に沈めなくて、ガレージに置いておけばいいじゃないか……」

 

ピーター「本当の意味でこの刀に取り憑かれていたのは師匠、あなただったみたいですね」

 

ピーターは乳房を海へ投げる。師匠が「あっ」という声をあげたが、ピーターは止めなかった。

 

これで二度と、名刀・乳房が世に出回ることはないだろう。きっと。

 

<完>