怖いことを言うなと思った。
友人宅に遊びに行く最中のことだった。
遊びに行くなんて健全な言い方をしているが、
時間は終電がなくなった午前2時過ぎ。
お酒を飲んで友人の家に向かっていたが、土曜は終電の時間が早いことをすっかり忘れて、乗り換え途中の駅で電車で帰ることを断念せざるをえなかった。
タクシーで向かっても良かったのだが、あと2〜3駅の距離でたどり着くとのことだったため、夜風に吹かれながら歩くのも悪くないと、歩いて向かっている最中、友人はその一言を放った。
草木も眠る時間に殺人事件があった場所の話をされたのでは、例えばボクシングヘビー級チャンピオンもあそこが縮み上がってしまうことだろう。
夜の道は私たち意外誰も歩いていない。
歩いていても怖いが、誰も歩いていないのもまたそれはそれで怖い。
そんな状況下で、怖い話なんて、数段増しで怖く感じる。
話を聞くと、そこは友人宅から数百メートル離れた場所にある小さな建物で、当時は美容院だったそうだ。
数年前、殺害されたのはその店で働いていた美容師とその家族。経緯は不明だが、家族3人が殺害されたそうだ。全員殴り殺されていたらしい。
そんな話を聞くと、ただのシャッターがしまった民家が、おどろおどろしい館のように感じる。
あのシャッターの向こうで惨劇が起きた。
もし当時のまま、殺害が起きたままの店の中がそのままにされていたとしたら、なんとも恐ろしい。深い悲しみや情念にさらされているような気分になってきた。
もう何年も前の話とはいえ、怖いから早くここを離れようと友人に伝え、その場を後にした。
しかし無駄だった。
「ここの公園、夜たまに人が集まって何か、降霊の儀式みたいなのやってるんだよね」
「この電話ボックス、10年くらい前まで、夜中から朝までずっと中で佇んでる女の人が出るって噂になってたんだよね」
「この交差点すごく事故が多いんだよ。昔1ヶ月で3〜4回交通事故が起きたことがあって。運転するときはこの交差点は通らないようにしてる。」
友人から、友人宅付近で起きた怖い出来事がポンポン出てくる。どれもこれも夜に聞くと気味の悪い話ばかりだった。
殺人事件が起きた建物から離れたところで、日常に潜む恐怖のようなものから完全に逃れられたわけではなかった。
というより、なんて地だ。
この話、嘘か誠か確かめる術はなし。