私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、裁判傍聴のレポートなどを書いている趣味ブログです!

【短編小説】新郎新婦の顔面写真入り食器コレクターに取材するインタビュアー

林川 美香(はやしかわ みか)は、某出版社に勤める記者。

毎月発行している、ビジネスパーソン向け雑誌『リストラ』の記者となり11年。さまざまな職業の人を紹介する取材記事を担当し、これまでに数百名にインタビューをしてきた。

占い師が使う巨大水晶職人、ポ○モンカード転売ヤー、国語の教科書音読代理人、カマドウマ飼育員など……例を挙げ続けたら、東京-大阪間を自転車で12往復するくらいの時間がかかるだろう。

 

しかし世の中には、林川が知らない職業がまだまだ存在する。

今回取材する相手も、林川にとっては未知の職種の人間だ。

『新郎新婦の顔面写真入り食器コレクター』こと、場戸沢 胸広(ばこざわ むねひろ)。結婚式の披露宴でたまに配られる、新郎新婦の笑顔の写真がプリントされた食器を集めているという変わり者。年齢54歳、小太り、バーコード頭の男性だ。

来月号の『リストラ』は、雑誌全体の特別企画として「ビジネスパーソンの理想の結婚特集」が組まれている。それに合わせた珍しい職業の人を記事にすることになり、幸せな夫婦の姿が記録された食器を集める場戸沢に白羽の矢が立ったのである。

 

インタビューとあわせてコレクションの写真も撮影する必要があるため、林川はカメラマンの男性と共に、場戸沢が営む「顔面写真入り食器博物館」に足を運んだ。

外観は小さな古民家。おそらく場戸沢が所有していた不動産を改築して、博物館にしたのだろう。

玄関は、すりガラスの扉。サザエさんの家を思わせる作りだ。

林川は玄関の右横に設置されたインターホンを押す。「はぁい」という野太い声が聞こえ、扉が開き、上下灰色のスーツを着た場戸沢が出てきた。

林川らを博物館に上げる。靴を脱ぎ、玄関からリビングだったであろう部屋へ進むと、20畳ほどの部屋の中をぐるっと囲むように背の高い食器棚が並んでいた。

食器棚の中には、お皿やマグカップなど数々の食器が飾られ、そのどれもに幸せそうなカップルの顔写真がプリントされている。

 

場戸沢「すみませんねぇ。ここ、博物館なもので、座れるような椅子とか置いてないんですよぉ。椅子を置くスペースがあるなら、もっと食器を置きたいものでね」

 

この部屋以外にも、食器が置かれているようだ。

博物館全ての食器を合わせたら、数千〜数万点に及ぶかもしれない。

今回は、立ちながらのインタビューになった。

 

林川「すごい数の食器ですね……全部、場戸沢さんが集めたのでしょうか?」

 

場戸沢「私が自分で集めたものは、1%にも満たないと思います。ほとんどが、『知人の披露宴で引き出物としてもらったんだけど、なんだか捨てづらいから引き取ってほしい』と言われ、譲ってもらったものですね」

 

林川「確かに、私も友人の披露宴の引き出物で、新郎新婦の写真が入ったお皿をもらったことがありますが、捨てるとなんだか……2人に良くないことがありそうで……」

 

場戸沢「罰当たりな気分になりますよね?でも、普段使いするにしても、ふとした瞬間に食器の夫婦と目が合って気まずくなったり、口をつけた部分に新郎の顔があったりして間接キッスした気分になったりする……そうですよね?」

 

林川「前半は概ね同意ですが、後半はちょっとよく分からないですね」

 

場戸沢「理由はどうあれ、林川さんと同じく、この手の食器は捨てたくても捨てられない人が多いんですよ。本来なら捨てる必要のない、縁起の良い物なのですが」

 

林川「そうですねぇ……場戸沢さんは、なぜ新郎新婦の写真入り食器を集めるようになったのでしょうか?」

 

場戸沢「単純な理由ですよ。他にないレアな代物だからです。地球上に数十億もいる人間の中から運命的に出会い、恋に落ちたカップル。そんな2人の顔写真が入った食器は、世間一般には流通していません。披露宴の参加者に配られたもの以外に作られていない特注品。だから私は価値を感じて、収集しているのです」

 

林川「参加者の分以外に作る価値がないから、数も少ないんだと思うんですけど……」

 

場戸沢「そうでもありませんよ。うちの博物館の、1カ月間の平均来場者数は5万4000人。入場料だけで、私とアルバイト6名がそこそこ裕福な暮らしができるくらい儲かっていますからね」

 

林川「5万4000人も!?その人たちは何を目的に来てるんですか!?」

 

場戸沢「一番多いのは、『幸せそうな夫婦の顔を見たい』というご年配の方ですかね。最近はお子さんやお孫さんがいないご家庭も多いですから。他には、藁人形を持ってくる若年層もいます」

 

林川「呪いの儀式やろうとしてる人いません!?どっかの新郎か新婦を呪い殺そうとしてるでしょ!?ダメだ……これは記事に書けないぞ……『理想の結婚特集』なのに、縁起が悪すぎる……」

 

場戸沢「そうだ!せっかくだから、普段お客様にお見せしていない、とっておきのマグカップを持ってきましょう!」

 

そう言うと、場戸沢はリビングから出ていった。

2分後、手のひらサイズの白い箱を持って、戻ってきた場戸沢。

場戸沢は箱を開け、茶色い紙に包まれたマグカップを取り出した。

マグカップの横面には、新婦の方が少しだけ背の高いカップルの写真が大きくプリントされている。

 

林川「これがとっておきですか……?失礼ですが、他の食器と差はないように思いますが……もしかして、有名人の引き出物とか?!でも、見覚えのない人たちだなぁ……」

 

場戸沢「この夫婦は同期入社の社員同士だったのですが、披露宴の3日後にスピード離婚したんですよ。旦那さんが会社の後輩女性とホテルに入っていくのを、同僚が何度か目撃してましてね。その噂が、同じ会社で働く奥さんの耳に入ってしまったんです」

 

林川「はぁ?!離婚した夫婦の食器まで持ってるんですか!?しかも大事そうに、博物館の奥に保管してぇ?!」

 

場戸沢「ほら、一度離婚した夫婦って、よっぽどのことがない限り再婚しないじゃないですか。だから離婚した夫婦の写真入り食器は、他のものと比べて入手できる確率がめちゃくちゃ低い代物だと思うんです。今後、同じものが作られることは二度とないといってもいいでしょう。だからこそ、とっておきなんです!」

 

林川「いやぁ……これも記事にできないなぁ……離婚した夫婦の顔写真が入った引き出物を大事に持ってるなんて記事を公開したら、悪趣味すぎて炎上しますよ……まだ『ぶち割ってました』ってオチの方がマシかもしれません」

 

場戸沢「そうですかぁ……では、もう1つ別のものを持ってきます。これなら炎上しないんじゃないでしょうかね?」

 

場戸沢はまたリビングから出ていった。

5分後、さっきより2回りほど大きい茶色いダンボールの箱を持ってきた場戸沢。

箱を開けると、大量の新聞紙に包まれた、直径30cmほどのお皿が出てきた。

お皿の真ん中にデカデカと、カップルの写真がプリントされている。新郎はタキシードが張り裂けそうなほどガタイが良い。

 

林川「旦那さんの体格からして、彼はスポーツ選手じゃないですか?バスケとか、野球とかのプロ選手が結婚したときの引き出物でしょう!?違いますか?」

 

場戸沢「惜しい!この新郎はラグビーの実業団でプレーしていた選手なので、林川さんの推測はかなり近いですね。でも、隣の女性、奥さんだと思うでしょう?実は違うんですよ」

 

林川「はぁ?」

 

場戸沢「新郎が若手ラガーマン時代から熱狂的なファンだった女性が、ストーカー化していたそうでして。新婦の顔をその女性の顔に合成した写真を作って、食器に印刷する前にすり替えていたんです」

 

林川「怖っ!じゃあこれ夫婦の写真じゃないってことですか!?」

 

場戸沢「その通り。ちなみに、この新郎の奥さんは、結婚前からストーカーの女性に嫌がらせを受けていたそうです。会社のロッカーにタランチュラを入れられたり、夜寝ているときに部屋に侵入され、耳の中にカミキリムシを入れられたり……残念なことに、この写真が決定打となり、離婚に踏み切ったのだとか」

 

林川「そもそもよく結婚しましたねその奥さん!!メンタル強過ぎでしょ!?ていうか、さっきからいわくつきの食器ばっかりじゃないですか!?ここは供養寺ですか!?こんな縁起の悪いものばかりじゃ、今回の取材自体お蔵入りですよ!どうなってるんですか!?」

 

場戸沢「いや、私だっていわくつきの物ばかり集めているわけじゃないんですよ!少なくとも、顔写真入りの食器を作って披露宴の参加者に配ったときは、新郎新婦とも幸せの絶頂だったことには間違いないじゃないですか!」

 

林川「確かにそうかもしれませんが……」

 

場戸沢「でもなんでしょう、こういう自惚れた食器を作っちゃうカップルというのは、ろくな末路を辿らないといいますか……」

 

林川「あなたこの手の食器集めてメシ食ってるのにバカにしてますよね?本当に何も記事に書けないですよ、これじゃあ!」

 

場戸沢「では最後に!記事のネタとして打ってつけな食器を紹介します!本当に、二度と手に入らない品なんです!」

 

林川「どうせそれも離婚した夫婦の食器なんでしょう!?で、次の夫婦はどんな別れ方したんですか?」

 

場戸沢「結婚後に不倫した旦那さんと、その旦那さんを包丁で滅多刺しにして殺した奥さんがプリントされた醤油さしです」

 

林川「この取材ボツ!!」

 

<完>