私の名前はジロギン。

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なぜおじいちゃんを大切にしなければならないのか?

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「どけ!ジジイ!」

電車などに乗っているとたまにこういう光景を見たりします。夜が多いですね。
若者が老人を悪く言ったりする状況です。

今に限ったことではなく、こういう状況は昔からあったと思います。
しかしよく考えてみると、例えば私の親世代、今の50代くらいの人たちが10代、20代だった頃のジジイたちに対して暴言を吐くことって、とても危険で命知らずな行為だったと思うのです。

何故なら当時のジジイの中には戦争を経験し、戦場を駆け巡った、戦士だった可能性があるからです。

迂闊に暴言を吐こうものなら、当時戦争で培った感覚が蘇り、ただオラついているだけの若造なんぞ一捻りであの世送りにできる…
そんなおじいちゃんたちが確実にいたと思います。
悲しいことではありますけどね。持ちたくて持った技術ではなく、時代の中で仕方なく持たざるをえなかった人を殺すための悲しい技術。
しかしそれを持つおじいちゃんにケンカを売る真似をしたら、どうなるか…想像に難くないです。




例えばこんな経歴を持つおじいちゃんもいたかもしれません…

そのおじいちゃん、いや当時は1人の若い男として戦場に駆り出され戦士だった。

幼少の頃は特別勉強が出来たわけではない、友人が多かったわけではない。親には「お前は何の才能もない、だから人一倍努力をしなければならない」と言われ育ってきた。

男は親の教えの通り努力を怠らなかった。何事も他人より劣る自分は、常に努力をしなければならないと考えていた。

しかし、そんな自分が何の努力もなく活躍できている。まさか自分にこんな才能があったなんて…戦場とは不思議な場所だ。




男の評判を知らないものはいなかった。「1人で一個大隊を壊滅させた」、「軍艦を3隻沈めた」など尾ひれ背ひれの生えた噂は出回っていたが、あながち間違えてもいないほど、男は戦場で功績を上げ続けた。

戦友たちからは「死神」と呼ばれた。
人の命を奪うことで評価されるなんてことはあっていけない。しかし賞賛されるというのは悪い気はしない…男は葛藤しながらも引き金を引き、刃を振るった。


そんな戦場でのある日のこと、
また今日も命を奪う時間が始まる。
男は戦場でしゃがみ込む1人の敵兵士を発見し、物陰から頭に狙いを定めた。

バカなヤツだ。一瞬の油断が命取りの戦場で隙を見せるなんて。

男は引き金を引き、敵兵士を射殺した。
遺体を確認しに近づくと、男は兵士のそばにとある「命」を見つけた。

赤ん坊だった。日本人の赤ん坊。
右頬には十字の傷がつき、血が出ている。

正直、見逃してもいい。赤ん坊を抱えて戦場に繰り出すなんて、自殺行為。必ず赤ん坊が足を引っ張ることになる。
ここでこの赤ん坊を殺して、今射殺した敵兵士が殺したことにも出来る。
だが男は赤ん坊を抱き上げ、近くの防空壕までかけて行った。

防空壕の中の1人の女性に赤ん坊を預けた。
今の男には赤ん坊の存在は邪魔になる。
そして赤ん坊にとっても子育ての経験がない男の側にいたところで利はない。

最も良いと判断される選択肢は子育ての経験がある女性にこの子を預けることだった。

「死神」が「命」を助けるなんて、皮肉だな、と男は微笑んだ。




かくして戦争は終わった。男は「死神」の名を封印し、また賞賛されることのない、自分の才能を活かすことのできない社会に戻った。

30年が経った。男は介護職に就いていた。
今まで多くの命を奪ってきた男にとって、人の命を生かす仕事をすることこそが、自分に出来る唯一の償いだと感じていたからだ。

いや正確には、そう考えることで、人の命を奪ったことからの罪悪感から逃れらるというのが本当の理由だった。




今日も仕事が終わった。
終電間際の電車で家に帰る。
それだけだと男は思った。

「どけ!ジジイ!」

若い男に怒鳴られた。もうジジイと呼ばれる年になってしまったことを悲しく思うのと同時に、単純な若者に対する怒りも湧いてきた。

男の心に「死神」の顔が見え隠れする。
こんな戦争を知らない若者の頚椎を捻じ切ることくらい容易い。
男の指に力が入る。が、その力の矛先にある若者は男にとって意外な存在だった。

若者の右頬に十字の傷が付いている。年齢も30歳ほど。
間違いない、戦場で助けたあの赤ん坊だ。あの赤ん坊が成長して今は働いているのだ。

「す…すみません」

「死神」は顔を伏せた。
男の怒りは一瞬のうちに消えた。

むしろ喜びがあった。あの赤ん坊が生きていたんだという喜びだった。
命を奪い合う戦争で唯一助けた命が今も生きていた。男は救われたような気分になった。



男は若者のことを調べた。
どうやら今月の末に結婚式を開くらしい。
男は招待されるわけがない。親でもないし、若者には男との面識なんてないからだ。

それでも男は結婚式場に足を運んだ。
場内には入れないが、その空気感だけは味わいたく、式場の外から見守っていた。

そこに現れたのは5人の見るからにガラの悪そうな男たち。
若者の結婚式に乗り込み式をめちゃくちゃにしに来たのだ。
若者は良くない因縁を抱えているようだ。だいぶ危険な仕事をしているらしい。



男に出来ること、それは結婚式を何の危険もなく終えられるよう支援すること。
最後に、最後に一度だけ「死神」になろう。
男は5人の集団に向かって行った…







というようなことになるのではないかと思います。いやぁ迂闊におじいちゃんに悪いことを言うべきではないですね。

ん?そんなに危険でもないかな…?
でもおじいちゃんを大切にしましょう!






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