私の名前はジロギン。
『人間は陽キャと陰キャの2種類に分けられる』
このような考えが、人々に浸透しているように思います。
この2つで言ったら、私は見まごうことなき陰キャ。
100人にアンケートを取ったら、108人が私を陰キャとみなすでしょう。
いつから陰キャになってしまったのか……
思い当たるターニングポイントは多々あるのですが、「中学の最初の座席」がかなり影響していたなと思います。
今回は、当時の話を書きます。
十数年前の思い出話に、お付き合いいただけると幸いです。
ヤンキーの座席になった
私が通っていた中学校は、もともと私と同じ小学校だった人たちが半分、もう半分は近隣の小学校から進学してきた人たちで構成されていました。
つまり、学年の50%くらいと面識がありましたが、全員と親しかったわけではありません。
さらに、私が小学校時代に会話をしていた数少ないメンツは、全員別の中学に進学。
入学早々、クラスでひとりぼっちになってしまいました。
もうすでに陰キャの道を歩み始めていた私。
「新しい自分を見つけないと、ぼっちの中学生活を送ってしまう……」と不安になっていました。
しかし、自分を変えるチャンスがすでに舞い込んできていることに気づきました。
それが、教室の座席の位置。
私は、この初期配置だったのです。
ちょっと孤立したヤンキーの座席。
学園ドラマで大体いる、『授業中は寝ていて不真面目、先生に呼び出されてばかりの問題児だけど、クラスが揉めると核心をつく一言で、全員をまとめ上げるヤンキー』が座ってそうな席だったのです。
今までの私は、真面目で大人しく、先生の言うことを聞くだけ。友達もおらず授業を受けるているマリオネットでした。
ヤンキーの座席になったことは、そんな自分を変えるチャンスだと思いました。
どうせ友達がいないなら、ここらでグレにグレて、新しい自分の道を開いてみるか!
そう決意し、理想のヤンキー像を考え始めたのです。
まず学ランは第2ボタンまで外す。上履きはかかとを潰して履き、ポケットに手を入れて肩を揺らしながら廊下を歩く……
いや、古のヤンキーすぎる。もっと先進的なヤンキーであるべきだ。
先進的といえば、やっぱりアメリカかな。
アメリカのヤンキーは実際に見たことないけど、いつもガムを噛でて、バスケットボールを持ってて、放課後は5〜6歳くらい年上の、職業不詳の女が運転するオープンカーに乗って、ダンスパーティに向かう感じか……?
いやいや、いきなりこれはハードルが高すぎる。
もっとイレギュラーな感じを目指してみるか……
モヒカン頭で顔に傷、指の真ん中くらいで切れてる手袋をつけて、鎖を振り回しながら自転車で登下校する……
うーん、これじゃただの世紀末。
真面目で大人しいタイプとして生きてきたせいか、ベストなヤンキー像が思い浮かびません。
問題はそれだけではなかったのです。
当時、私の中学は各学年60人ほど、1クラス30人前後で構成されるスモールサイズな学校でした。
これだけ少ないと、誰がどんな人か全員がだいたい知っている「村」みたいな環境です。
そんなほのぼのとした学校でヤンキーを気取る……ダサい!!
なんてダサいんだ!!
数百人いるマンモス校で、いろんなヤンキーが抗争している中に参戦するならまだしも、少人数のなかでイキるのは、ダサいことこの上なし。
例えるなら、市民プールにある子ども用の浅いプールで、華麗なクロールを見せびらかしているようなもの。
大人用の足がつかないプールで、50mくらいあるプールで泳いでるガチ勢に比べたら、ものすごくダサい。
こんなことを考えているうちに、入学から数日が経過。ヤンキー化計画はすっかり白紙になりました。
そんな折、さらに大問題が発生したのです。
友達を作る第一歩は身近な人に話しかけること。クラスメイトたちは、隣の席の子と会話し、着々と親交を深めていました。
一方、私はヤンキーの席になってしまったばかりに、隣には誰もいません。
そう、「まずは隣の子に話しかけてみよう!友達の輪を広がよう作戦」ができない席だと気づいてしまったのです。
話しかけるには前の子の肩を叩き、こちらを振り向いてもらうしかない。
でも、前の子はすでに隣の子と楽しそうに話をしている。
そこに割って入るほどのコミュ力は……ない……
孤立した席になっただけで「ヤンキー化計画」なるしょうもないプランを進めようとしたばかりに、私は友達を作るための大切な期間を棒に振ってしまいました。
こうして私の中学時代は、暗黒大陸に突入していったのです。
オレが求めた学生生活
ヤンキーの席に座りながら、授業中は一睡もせず、サボることもなく、テストでは割といい点をとる学生になった私。
小学生の頃に逆戻り……いや、クラスに話す人はゼロになり、もっと暗い学生生活を送ることになりました。
でも、ちゃんと授業は受けているし、何も問題ないだろう
と考え、極・陰キャ化した自分を受け入れようと頑張っていたのです。
先生からの評価も悪くはなかったものの、事あるごとに、
「もっと他人に興味を持って、クラスメイトと積極的にコミュニケーションを取ろう!」
と言われ続けていました。
……………
……………
……………
わかってる。わかってるさ。
友達がいる方が、楽しい学生生活を送れることなんて。
友達と遊んでいる子たちは、みんな生き生きしてる。
授業やテストに文句を言いながらも、笑顔で毎日学校に通っている。
でもさ、人それぞれ得意なこと、不得意なことがあるんだよ。
オイラは友達を作るのが苦手なんだよ。
テストで0点取る子が、勉強が苦手なのと同じなんだよ。
わかってくれよ。
陰キャ化した自分を認めたはず。でもやっぱり認めきれない部分もある。
自分を変えるしかないのか。
ヤンキーとはいかないまでも、せめて陽キャになりたい。
テストで悪い点を取っても笑い飛ばし、そんな性格が周りの子から人気を集める陽キャになりたい。
そうだ、まず授業を不真面目に受けてみよう。それが陽キャへのFIRST STEP。
……………
……………
……………
いろいろ考えているうちに、私は「授業をちゃんと受けないヤツ=陽キャ」というアホな定理を導き出してしまいました。
明らかに間違った定理をこの世の真理と疑わない私。
バカ真面目な自分を脱ぎ捨て、自分の思うままに、ありのままに授業を受けてみることにしたのでした。
数日経ったある日の国語の授業は、近隣の学校の先生たちが授業を見にくる「研究授業参観」でした。
授業内容は「ある物語を読んで、その感想文を書く」というもの。
教室の後ろには、研究のために来た十数人の先生たちが横一列に並んでいます。
そうなると、彼らは一番近いヤンキーの席に座る私がどんな文章を書いているか、ジロジロと見ます。
恥ずかしかったですが、これも大チャンスだと思いました!
私の学校の先生だけでなく、この地域の先生たちにも不真面目な自分をアピールできる……!
噂がいろんな学校で広まり、近所で有名な陽キャ野郎になれる……!!
完全にアホの思考です。
この授業で私は、これまで書いてきた、いわゆる「真面目で良い子ちゃんで模範的、85点くらいの感想文」を捨て、本当に自分が思った通り、素直な気持ちを書きまくりました。
「気持ちいい……気持ちいいぜ!
不真面目って、なんて気持ちいいんだろう!
素直な気持ちでいるって、なんて最高なのだろう!!」
快楽のシャワーを浴びている私のもとに、おばちゃん先生がやってきました。
そして、じっと私の感想文をのぞいてくるのです。
「どうしたおばちゃん?オイラと一緒に快楽のシャワーを浴びるか?
それにしちゃ、あんたは真面目すぎる。真面目という名の衣類を着すぎているよ。
その服を脱いでから出直して来な、まぁ、服の下にある、年季の入ったボディをあらわにできるならの話だけどな……」
素直すぎる文章を目の当たりにし、ショックでおばちゃん先生が硬直しているであろう頃、授業が終了。
直後、おばちゃん先生が私に一言。
「キミ、すごいよく書けてるね!いい!個性的で!」
私の中で、何かが音を立てて崩れ去りました。
不真面目に書いたはずなのに……
真面目だけが取り柄だった自分を捨てたはずなのに……
今まで以上にちゃんと授業を受け、より良い成果を出す自分になっていたのか……
出典:HUNTER×HUNTER 28巻 17P /冨樫義博/集英社
オレが求めた学生生活は!!!
しかし、何もできない……
ショックを受けて硬直したのは私の方だったのです。
その後も自分を変えようと試行錯誤しましたが、すべて上手くいかず。
結局、中学校3年間は陰キャに甘んじることにし、高校から不真面目な陽キャとしてデビューすることを誓ったのでした。
高校の座席
約3年が経ち、私は高校生に。
入学した高校は、同じ中学からの進学者が誰もおらず、新しい自分を作るにはベストすぎる環境でした。
さらに、私服OKだったので、入学式の日からドクロと英語がいっぱい書いてある黒いシャツを着て登校しました。
これは完全に陽キャそのもの。クラスの人気者に間違いなし。
最高のスタートダッシュが切れたと確信しました。
しかし、人生そう上手くいきません。
私が進学した学校は、いわゆる進学校でして、学生は真面目な子たちばかりだったのです。
不良なんていないし、私服OKなのにみんな律儀に学ランで通っているような学校でした。
そんな中、いきなりドクロ&イングリッシュでスタートをかました私は、異質中の異質。誰も近寄ろうとすらしません。
自分から周りの子に話しかけても、「そうなんだ、へぇー」しか言ってもらえず、オレに関わるなビームを照射される始末。
うさぎがいっぱいいる小屋で、1匹だけ飼われているチャボのような気分になりました。
そして肝心の座席はというと、今度は教卓の目の前。
席替えでせっかく一番後ろの席になったのに「先生、黒板が見えないので一番前の席にしてもらいたいです」と言い放つ、眼鏡でガリ勉の子が座る席です。
初っ端から最悪の状況でしたが、陽キャになるべく、授業中は爆睡してやろうと思いました。
この時もまだ「授業を真面目に受けない=陽キャ」の定理は健在。
しかし、これも上手くいかず。
授業のたびに先生が、以前どこまで進んだか確認するために私のノートを見てくるのです。
ノートを取っていなければ、クラス全体の授業進捗に大きく関わり、真剣に勉強したい子に迷惑がかかります。
こうして私は、教室で一番パンクな服装なのに、授業中はちゃんとノートを取っているカオスな生命体になったのでした。
私の人生に、ヤンキー・陽キャになるレールは敷かれてなかったってことです。