『テニスの王子様』には、試合が描かれる前の段階で、選手の間で高い評判を得ているキャラが多数登場します。
ウワサになるほど実力が高く、他校から警戒されている選手ということになるのですが、中には作中での活躍が前評判に追いついておらず、「あの評価の高さは一体何だったのか?」と感じてしまう、不遇なキャラもいるのです。
リョーマと対をなす裏主人公ともいえる金太郎くんですら、公式戦の描写はほとんどありませんでした(キャラとしてはかなり目立っていたし、新テニプリで活躍の機会が増えたので、今回は金ちゃんの紹介は省きます)。
そこで今回は、『テニスの王子様』で前評判ほどの活躍が描かれなかったキャラを6人紹介します(『新テニスの王子様』は除く)。
柿の木中テニス部主将・九鬼貴一
まずは柿の木中テニス部主将・九鬼貴一くん。
「お前は決して弱くない。オレが強かっただけの話だ!」という、相手を褒めているのか自画自賛しているのかよく分からない、謎の決め台詞を持つプレーヤーです。
柿の木中は、リョーマが所属する青学と同じ地区にある中学校で、その地区では青学と柿の木中の2強状態だった模様。
しかも手塚くんの話だと、柿の木中は、全国最強の立海大付属中と何度も練習試合を組み、戦力を強化していたとのこと。
そんな柿の木中の主将を務めていた九鬼くんは、都大会・関東大会でも通用するレベルの実力者だったかもしれません。
しかし、柿の木中は地区大会の準決勝で不動峰中に敗北し、都大会に進出できず……
九鬼くんは不動峰の2年・伊武くんに負けてしまいました。
しかも試合後の伊武くんは汗一つかいていなかったので、かなりの大差で負けたのではないでしょうか。
伊武くんは決勝でリョーマと互角の勝負をし(リョーマは目を負傷した状態でしたが)、竜崎先生からも「不二クラスの才能」と評価されていましたので、実力者であることは間違いありません。
しかし、つい数カ月前まで荒れ放題だった不動峰中の2年に、強豪校の主将が負けるのはまず考えられない事態。
九鬼くんは「都大会有力候補」「立海大と練習試合を繰り返してきた」という前評判に見合った活躍はできなかったと考えるべきでしょう。
立海大との練習試合も、赤也くん以外は2軍・3軍の選手しか来てくれてなさそう…
Jr.選抜の千石清純
山吹中3年の千石清純さんは、まさに山吹中のエース選手。
ダブルスが2組とも全国レベルの山吹中は、団体戦ではダブルスで2勝し、シングルス3の千石さんが3勝目を決めるという勝利パターンを持っています。
そんな千石さんは、作中時間で1年ほど前、関東の強豪選手が参加する合宿「Jr.選抜」のメンバーに選ばれています。
当時、千石さんと同じくJr.選抜に選ばれたメンツには、跡部くんや真田くん、柳くんなど全国区プレーヤーも含まれています。
本来手塚くんが参加する予定だったのを断ったため、千石さんは空いた枠に入った形でしたが、経歴だけ見れば全国区プレーヤーと遜色ありません。
千石さんは全国区レベルの実力者なのか……と思いきや、都大会決勝では桃ちゃんに敗北。関東大会では不動峰の2年・神尾くんに敗北しています。
桃ちゃんはシングルスだと、青学では5番手か6番手か……レギュラー内では中堅くらいの選手です。
神尾くんは不動峰で2番手or3番手の選手ですが、そもそも選手層が薄い中で2番or3番。
千石さんの経歴を考えると、この2人くらいには軽く勝ててもおかしくはないだろうというのが正直なところです。
でも千石さんは新テニプリで活躍の場をもらったから、かなりラッキー↑な方ではあるよね
裕太を15分で倒した芥川慈郎
氷帝の部長・跡部くんが榊監督に「来週までにジローの奴を呼んでおいてください」と電話するなど、氷帝の隠し兵器感が満ち溢れていたジローくん。
跡部くんの期待に応えるかのように、都大会の5位決定戦では、聖ルドルフの2年にして不二くんの弟である裕太をわずか15分で倒してみせました。
裕太はリョーマに敗北したものの、超ライジングやツイストスピンショットでリョーマを苦しめました。
その裕太を15分で倒したジローくん……もしかしたらリョーマ以上の実力者かも……
と思っていた時代が僕にもありました
その後、関東大会の1回戦でジローくんは不二くん(兄)と対決。
序盤は、体勢を崩しながらも手首の柔軟性でボレーをコントロールする「マジックボレー」で対抗しますが、不二くんの消えるサーブやベースラインに釘付けにするほど深い打球、白鯨を前になす術なく敗北。
圧倒的な実力差がありました。
以降ジローくんの試合描写はなく、全国大会の青学戦でも補欠扱い。
相手は不二くんだったとはいえ、あまりにも大差で負けてしまったことが、全国での青学戦で起用されなかったことに影響しているかもしれませんね。
次期氷帝の部長・日吉若
氷帝の真の隠し兵器はジローくんではなくこの男!2年生の日吉若くん!好きな言葉は「下剋上(猫駆除)」。
準レギュラーながら、関東大会では補欠選手に登録されており、リョーマと試合することに。
日吉くんは、あの乾くんですら本人のプロフィールくらいしかデータのない謎の選手でしたが、前評判の高さはリョーマと戦うには十分。
- シングルスでビッグサーブを持つ長太郎くんに勝利
- 新人戦で赤也くんと互角に戦う(4-6で敗北)
- 氷帝の正レギュラー・滝くんを6-1で下した宍戸さんを差し置いてレギュラーに指名されかける
このような戦績や評価から、日吉くんは跡部くんを継ぐ氷帝の次期部長といわれています。
リョーマとの試合では、古武術をベースにした「演舞テニス」でトリッキーなプレーを見せますが、ドライブBを連打するというリョーマの若干の舐めプを前に敗北。
単純に実力差があったことだけではなく、相手が1年生だと油断してしまったことも敗因だったかもしれません。
全国大会では、先輩である岳人くんとダブルスを組んで乾・海堂ペアと対戦。
短期決戦型の2人が組むことで超攻撃的なテニスを見せますが、海堂くんの持久力と乾くんのデータにより、気がつけば長期戦に。
完全に策にはまり、体力切れでまた敗北してしまいました。
相手を舐めたり、油断したりしがちな日吉くん。
描かれた試合では勝ち星がないのが少し気がかりですが、来年はきっと立派な日吉王国を築いてくれる……はず。
あの手塚くんを追い詰めた樺地くんと、青学ゴールデンペアに勝った長太郎くんが同期というのも、日吉くんの評価がイマイチ上がらない理由かも
六角の1年生部長・葵剣太郎
千葉県代表の六角中。選手たちは顧問・オジイの下、遊びからテニスを学んでいますが、関東では屈指の強豪校です。
その強さの秘密は、オジイが選手それぞれに合ったオリジナルのウッドラケットを作っていることにもあるでしょう。
そんな六角中を率いている部長は、なんと1年生の葵剣太郎くん。
青学のスーパールーキーがリョーマなら、剣太郎くんは六角のスーパールーキーでしょう。
部長に選ばれるだけあり前評判も申し分なく、実力は、氷帝の準レギュラー100人を1人で倒したダビデくんと互角。
本人も腕に自信があるようで、リョーマとの戦いを熱望していました。
しかし関東大会の準決勝、青学戦での剣太郎くんの相手はリョーマではなく海堂くん。
1年生対決は実現しませんでした。
剣太郎くんは自分にプレッシャーをかけることで、コードボール(ネットに引っかかって相手コートに入る打球)を連発するというドMプレーで海堂くんを翻弄。
途中、海堂くんが鉄柱に頭をぶつけて流血するハプニングがありましたが、これが海堂くんの覚醒?につながり、そのまま試合を決められてしまいました。
剣太郎くんの敗北が団体戦の勝敗を決め、六角は関東大会の準決勝で敗退。しかしベスト4に残ったことで、全国大会の出場は果たせました。
全国大会1回戦で、沖縄代表の比嘉中と対戦することになった六角中。
初戦のシングルス3に出場した剣太郎くんは、比嘉中の知念くんと対戦。
序盤はわざと知念くんにポイントを取らせて自分にプレッシャーをかけ、海堂くんとの戦いで見せたコードボール戦法で反撃に出ます。
しかし相手が悪かった。比嘉中の選手は全員が沖縄武術の使い手で、「縮地法」という移動技を習得しています。この縮地法により、比嘉中の選手はサービスラインからネットまで1歩で近づくことが可能です。
打球をネットに当ててコートの手前に落とす戦法を得意とする剣太郎くんにとって、縮地法は天敵中の天敵。逆転するはずが、リードを許したまま知念くんにストレートで敗北してしまいました。
強豪校の1年生部長という肩書きはちょっと重かったかもしれませんね。
剣太郎くんには来年も再来年もあるから、頑張れ!
アニメではリョーマと互角に戦ってましたね。完全なアニオリ展開でしたが
九州二翼の千歳千里
1年前の全国大会で、獅子楽中をベスト4に導いた九州二翼の橘さんと千歳くん。
その後2人は、それぞれ不動峰中と四天宝寺中に転校し、別々の学校で全国出場を果たします。
橘さんは不動峰中が青学と同じ地区だったこともあり、活躍は多々描かれてきました(どちらかというと監督として)。
しかし、同じ九州二翼の千歳くんの実力は全国大会まで謎のまま。
関東大会の3位決定戦で、六角の佐伯くんに圧勝した橘さんの試合を見た千歳くんは「弱くなった」と評価していたこともあり、私たち読者の千歳くんに対する期待は高まっていました。
さらに、関東大会決勝でリョーマと真田くんが対戦した際に、真田くんが無我の境地を使える選手の1人に千歳くんの名を挙げていたことも、別格感がありましたね。
そんな千歳くんの戦いが初めて描かれたのが、全国大会準々決勝の不動峰戦。
なんと同じ九州二翼といわれた橘さんとのシングルスでした。
橘さんは暴れ獅子による怒涛の攻撃、千歳くんは無我の境地のさらに奥にある「才気煥発の極み」による予測で試合は拮抗します。
結果は7-5で千歳くんの勝利。全国区プレーヤー同士のハイレベルな戦いとなりました。
その後の準決勝、青学vs四天宝寺。
千歳くんは変則シングルスで手塚くんと勝負することになりました。
序盤は「才気煥発の極み」で試合を有利に進める千歳くん。手塚くんも「百錬自得の極み」で対抗しますが、千歳くんの予測を上回ることができません。
しかし徐々に破られ始める千歳くんの予測。なんと手塚くんは「百錬自得の極み」と「才気煥発の極み」を同時に発動し、逆転したのでした。
試合結果は6-1で手塚くんが快勝。同じ全国区プレーヤーでもここまで差があるのかと、驚いた読者が多いのではないでしょうか?
同時に、作中の序盤から匂わされていた九州二翼がこんなにあっさり退場になってしまうことに、衝撃を受けた読者も多かったように感じます。私もその一人です。
ストーリー展開上、どこかで千歳くんは負ける運命だったとはいえ、ここまで圧倒されるとは思ってもみませんでした。
許斐先生のシナリオは才気煥発の極みでも予測できない…
前評判の高さ=負けフラグ?
『テニスの王子様』は、終始「評判の高さ=負けフラグ」感が続いていたように感じます。
正直今回挙げた6人は、まだ試合した描写があっただけ良い方で、意味深に強キャラ感を漂わせながら、1試合も描かれることなく出番を終えたキャラも少なくありません。
例えば、
- 山吹中の室町くん
- 六角中の木更津くん
- 四天宝寺中の財前くん
などが、その代表格でしょうか。
緑山中に至っては、3試合全部ダイジェストのような形で一瞬で消化されてしまいました。
悲しいかなぁ
でも『新テニスの王子様』では、前評判の高い選手はその評判通り強く描かれている印象です(勝敗はさておき)。
新テニの方は、強い選手だとプロまたはプロに近いレベルですから、前評判が高い選手があまり活躍しないなんてことはまずないんですよね。
「評判の高さ=負けフラグ」だった『テニスの王子様』から、「評判の高さ通りに選手が活躍する」に切り替わっていった『新テニスの王子様』。この傾向の切り替わりによって、『新テニスの王子様』では、古参の読者でさえ試合展開や勝敗を予測しにくくなっていると思います。
いやはや、許斐先生は本当にストーリー作りが巧みですね。