私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、ウォーキング(散歩)の記録などを書いている趣味ブログです!

【短編小説】一人称が「オレたち」の友達

17:28

東京・新宿駅構内

 

東口にずらっと並ぶコインロッカーの前で、家本 晴明(いえもと はるあき)は、友人の古後織 昌史(こごおり まさふみ)と待ち合わせをしていた。

家本と古後織は大学時代の同級生で、同じソフトテニスサークルに所属していた。

サークルの集まりなどでよく一緒に飲んでいた2人。当時、ほぼ同じような食生活を送っていた2人だったが、4年間で体型がほとんど変わらなかった家本と違い、古後織はブクブクとカバのように太っていった。

卒業後はそれぞれ別の会社に就職。

以来、1年以上会っていなかったが、家本がふと古後織に連絡した際、休みが合う日があったので久しぶりに2人で飲むことにした。

 

スマホを眺めながら古後織を待つ家本。

そんな家本のそばに、見知らぬ細身の男性が近づいてきた。

男性は「よぉ!」と挨拶をしてきたが、家本は男性の顔に見覚えがない。

 

???「おいオレだよ!無視すんな!」

 

家本「……?……お前まさか……古後織?」

 

古後織「そうだよ!古後織 昌史!北ジャスティス大学文学部卒、学籍番号はE-29038!」

 

家本「おいマジか古後織かよ!確かにちょっと面影はあるが、痩せ過ぎじゃねーかぁ?卒業した時と全然違う!骨格から別人になってるぞ!」

 

古後織「そうだろな。ここ1年で28kg痩せたから。別人に思えるよな」

 

家本「28kg!?すげーなぁ……小学校低学年生くらいの質量が丸々消滅してるようなもんか」

 

古後織「お前は変わらなすぎ!50m離れてても一瞬でお前だと分かるくらい変わってねぇ!」

 

家本「会ってなかったとはいえ、たった1年だぜ。第二次成長期じゃねーんだから、見た目の変化なんてほぼねーって」

 

古後織「まぁそれもそうか。ところで、お前メシ食べた?」

 

家本「ああ、オレたちはちょっと遅めに昼食とったから、腹減ってない。お前は?」

 

古後織「オレは食事制限してて、夕飯は食わねーんだよな」

 

家本「そうか。じゃあ居酒屋に直行していいな。どこか行きたい店ある?オレたちはどこでもいいけど」

 

古後織「ちょっと気になってる店あるんだが、反対の西口側なんだよ」

 

家本「全然いい。オレたち歩くの好きだから」

 

古後織「マジすまん。オレが東口待ち合わせって言っておきながら」

 

家本「いいって、いいって。オレたちそんなこと全く気にならないから」

 

古後織「……ちょっと待って、何?さっきから『オレたち』『オレたち』って」

 

家本「え?いやオレたち……何か変か?」

 

古後織「なんで複数形なんだよ。『オレ』でいいだろ」

 

家本「あっ!そうか忘れてた、紹介するの」

 

家本は、着ている黒いジャケットの右ポケットに手を入れて、何かを取り出した。

 

家本「ほら、ペットのジャンガリアンハムスター」

 

古後織「はぁっ?!」

 

家本「いやハムスター連れてるから、『オレたち』だろ?」

 

古後織「マジかよお前……『ハム太郎』じゃねーんだから、ハムスターなんて連れて歩くな!」

 

家本「そうそうよく分かったな!『ハム太郎』見て、ロコちゃんがハム太郎を肩とか頭とかに乗せてて、それに憧れてさぁ」

 

古後織「いやお前、あれはアニメだから成立してるもので、逃げちまうぞ!ハムスターなんてほぼ感情ないんだから!飼い主に対して愛着なんて微塵も持ってないんだから!」

 

家本「そんなことないぞ。オレと『ノウシくん』は深い絆で結ばれている」

 

古後織「ノウシくん?」

 

家本「そう、ハム太郎の友達のコウシくんのオマージュで『ノウシくん』って名前にしたんだ。『野牛』と書いてノウシと読む」

 

古後織「ああ『野牛』か。『脳死』かと思ってビックリしたわ」

 

家本「おバカっ!愛ハムにそんな名前につけるわけねーだろ!」

 

古後織「ハムスターに牛って名付けるのもどうかと思うが……」

 

家本「とにかくオレとノウシくんは一心同体。家族というか、オレの体の一部みたいなもんだ。いつも一緒にいる。だから『オレたち』なんだ」

 

古後織「そうか……その理論でいうなら、オレも自分のこと『オレたち』って言わないとだな」

 

家本「え?お前も何か動物連れてんの?どこ?ポケットの中?カバンの中?ハムスターならノウシくんの友達になってくれよ」

 

古後織「いや、腸の中」

 

家本「え?」

 

古後織「腸の中。1年前からサナダムシ飼ってて。ダイエットできたのもこのサナダムシが養分を吸ってくれたおかげなんだよ」

 

<完>