私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、裁判傍聴のレポートなどを書いている趣味ブログです!

【短編小説】ヨーヨー部を復活させようとする高校生

陰島(かげしま)「廃部した?そんなまさか!?」

 

数学科の職員室内に、学ランを着た男子高校生の声が響く。

陰島は県内で唯一「ヨーヨー部」がある逸物(いちもつ)高校に入学したが、時すでに遅し。ヨーヨー部は陰島が入学する1カ月ほど前に廃部していた。

 

陰島「なぜ廃部になったんですか!?教えてください!」

 

陰島は、目の前に座る中年の男性数学教師・魔羅(まら)の胸ぐらを掴む。

 

魔羅「昨年卒業した3年生が立ち上げた部活なんだが、引き継ぐ後輩が誰もいなくてな。部員がいないんじゃ、継続しても意味がないだろうということで、廃部になった。それよりお前!なに先生の胸ぐら掴んどんのじゃ!このミジンコ野郎が!」

 

陰島「そんな……オレはヨーヨー部があると聞いて、偏差値を20も落として逸物高校に入ったのに!本当なら、県内トップの進学校・穴尻第一(あなじりだいいち)高校に余裕で合格できたってのに!!」

 

魔羅「お前の事情なんて知らんよ。そもそも、ヨーヨーなんて家で一人でもできるじゃないか!わざわざ部活としてやらなくてもいいだろう」

 

陰島は魔羅の胸ぐらを、さらに力強く握りしめる。

 

陰島「それじゃダメなんだ!部活として先輩・後輩の交流がありながら、美人マネージャーもいて、厳しいながら見守ってくれる監督もいて、汗水たらしながら部員一丸となって全国大会を目指す……そういう生活をしたかったんだよ!しかもヨーヨー部としてなぁ!」

 

魔羅「テニスの王子様の読みすぎじゃないか?それに、なぜヨーヨーにこだわるんだ?部活がやりたいなら、バスケ部でもいいじゃないか?うちのバスケ部はすごいぞー。3年連続で夏の県大会ベスト4に進出した強豪だ」

 

陰島にはヨーヨーでなければならない理由があった。

陰島は2歳の頃から、両親によるヨーヨーの英才教育を受けてきた。

右手でご飯を食べながら左手ではヨーヨーをする。

ヨーヨーという字を毎日5000回写経する。

週末はヨーヨー・マの曲を28時間聴き続ける。

陰島が小学3年生〜6年生の間は、ヨーヨーの本場アメリカにヨーヨー留学させるほどの熱の入れよう。陰島は幼い頃から、アメリカのヨーヨー使いたちと渡り合ってきた。

そう、ヨーヨーとは、陰島にとって人生そのものなのだ。

 

陰島「バスケでも野球でも茶道でもダメだ!オレにはヨーヨーしかない!ヨーヨーがオレなんだ!」

 

魔羅「もし部を作りたいなら、人数を集めるか、なんらかの実績を立てることだな。まぁヨーヨーなんて、先生たちが若い頃に流行ったものだし、今からやる生徒がいるとは思えんが……はーっはっはっはっ!」

 

陰島は魔羅の胸ぐらを離すと、自分の教室である1年C組に帰って行った。

 

ーーーーーーーーー

 

昼休みの1年C組

教室の後ろに貼ってある掲示物の前

 

陰島は入学の日に仲良くなった、男子クラスメイトの葛沢(くずさわ)と立ち話をしていた。

 

葛沢「じゃあダメだったってことか?ヨーヨー部の復活は」

 

陰島「ああ。あの魔羅って先公、気にくわないなぁ……ヨーヨーをコケにしやがって!」

 

葛沢「でも魔羅の言うことも一理あるぜ。今さらヨーヨーやりたいヤツなんていないだろ?」

 

陰島「……なら実績を作るしかないな。ヨーヨー部を認めさせるための」

 

葛沢「そんな簡単に実績なんて作れるのかよ?」

 

陰島「オレを誰だと思ってる?高校1年生にして、ヨーヨー歴14年のベテランヨーヨー使いだぞ?」

 

葛沢「そんなに自信あるのか……なら、オレもお前の実績作りとやらに付き合ってやるかな。あ、でも勘違いすんなよ。オレはヨーヨー部になんて入らないからな」

 

陰島「へっ!ダチに泣きつくほど落ちぶれちゃいないさ」

 

そんな話をしていた陰島と葛沢だが、席を空けた隙にDQN女子集団に机を占拠されたため、休み時間が終わるまで自席に戻れなくなっていた。

 

ーーーーーーーーー

 

放課後

校舎3階と4階の間にある階段の踊り場

 

陰島の実績作りに付き合うと言った葛沢は、この日の放課後、陰島と行動を共にすることにした。

しかし、陰島が具体的にどんなことをしようと考えているのかは聞いていない。

陰島は校舎の階段を登り、上の階へと向かっている。

 

葛沢「どこ行くんだよ?これも実績作りの一つなのか?」

 

陰島「もちろんだ。これから向かうのは、3年A組の池袋 浩二(いけぶくろ こうじ)ってヤツのところ」

 

葛沢「池袋って……おいマジかよ!あの超絶ヤンキーの池袋か!?」

 

池袋 浩二、逸物高校3年A組出席番号2番。背の順で後ろから2番目。

学校一の不良として、その名を知らぬ生徒はいない。

池袋は常に数十人の舎弟を連れて行動しているものの、敵対者とはタイマンで戦うことを信条としている。ケンカの戦績は187戦全勝。折った他校生の骨の本数2289本。退職に追い込んだ教職員の数38人。1日に吸うタバコの本数3本まで。交際した異性の数0人。

名実ともに逸物高校の番長であり、校長先生すら傀儡と化すほど、裏で学校を牛耳っている。

 

陰島「池袋を懲らしめることで、教師どもに恩を売り、ヨーヨー部を復活させるよう根回ししてもらうのさ」

 

葛沢「なんかやること間違ってないか?こういう場合、大会とかに出て実績を作るもんじゃねぇの?」

 

陰島「最も近いヨーヨーの大会は、今日から2カ月後。だが、その大会まで待てん。もっと手っ取り早く成果を上げないと。オレの中の『所属の欲求』がコミュニティ、つまり部活動に属したいと疼いて仕方ないんだ」

 

葛沢「……お前知ってるか?去年までうちの高校にいた、熱血元ヤン教師のこと」

 

陰島「ああ。確か、元暴走族のヘッドだったけど、心を入れ替えて教師になった、体罰混じりの指導で有名なあの先生だろ。去年、テレビで特番も放送されてたよな?」

 

葛沢「そう。その番組を見た池袋が『調子に乗ってやがる』ってキレたらしく、元ヤン教師をタイマンでボコって病院送りにしてな。以来、教師を辞めちまったらしいぜ。だからその元ヤン教師、オレらの入学式にいなかっただろ?」

 

陰島「……そういう展開のときって、大体教師の方が勝つもんじゃないのか?」

 

葛沢「お前、GTOの読み過ぎだって。若くて体力のある現役ヤンキーの方が強くて当然だろ」

 

陰島「その理屈なら、池袋と戦ったらオレが勝つ。喫煙はせず、毎日6時間はヨーヨーをしているオレの方が、体力では上だ」

 

葛沢「そう……か?ヨーヨーで体力はつかなそうだが……」

 

陰島は3年の教室がある4階につくと、A組の教室へと向かい、勢いよく扉を開けた。

 

教室は、見るからに偏差値の低そうな不良たちにより占拠されている。

その数は60人以上。1つの教室に集まるには多すぎる数だ。

満員電車並みにぎゅうぎゅうの教室の奥に、池袋はしゃがみ込んでいた。

取り巻きの不良たちは、自分たちが鮨詰めになりながらも池袋のパーソナルスペースを空けている。これこそが、池袋への服従と敬意の証。

赤髪のリーゼント、左頬に大きな切り傷、ボタンのしまっていない学ラン、よく女性が吸っている細いタバコ、身長183cm体重52kgの巨体。

池袋は、獣のような威圧感を放っている。

 

陰島「池袋とかいう、ど底辺のバカがこのクラスにいると聞いたが……バカヅラが多くてどいつか判別できんな……」

 

葛沢「なに挑発してんだ!殺されるぞ!」

 

陰島の背後に隠れる葛沢。

 

不良A「誰だテメェ?!」

 

不良B「気安く池袋さんの名前呼びやがって!」

 

不良C「その上、バカっつったか?バカってよぉ!」

 

不良D「バカはテメェの方だ!この学校で最も危険な地獄に足を踏み入れちまったんだからな!」

 

不良E「無事に帰れると思わねぇことだ!」

 

不良F「指の1本や2本」

 

不良G「置いていくくらいの覚悟」

 

不良H「できてるんだろうなぁ?」

 

不良I「この甘ちゃんがぁ!」

 

不良J「ぺぇっ」

 

不良K「!!」

 

不良たちが一斉に、陰島へと暴言を吐きかける。

しかし、陰島は動じない。

 

陰島「弱い動物ほどよく吠え、よく群れる。池袋ってやつはタイマン主義だと聞いたが、所詮はサル山の大将ってところか……」

 

止まらない陰島の挑発に、ヒートアップする不良たち。そんな取り巻きたちとは反対に、池袋は冷静だ。

その場で立ち上がり、陰島の方へと歩き出す池袋。池袋が歩みを進めるにつれ、取り巻きの不良たちは罵声を放つのを一人また一人とやめ、静かになる。

池袋は陰島と葛沢の前で立ち止まった。

 

池袋「貴様、何年だ?」

 

陰島「14年だ」

 

葛沢「ヨーヨー歴聞いてるわけじゃなくね!?あの……ボクら1年で……」

 

池袋「1年がオレっちに何の用だ?」

 

陰島「お前の首を獲りに来た。このハイパーヨーヨーでな」

 

陰島はスボンの右ポケットから青いヨーヨーを取り出し、池袋に見せつけた。

 

池袋と不良たちは一斉に笑い声を上げる。まるで南アメリカのジャングルのサルだ。

 

池袋「そうかい、そうかい、そのヨーヨーでオレっちの首をねぇ。つまりタイマン希望ってわけだ。いいぜ。受けて立つ。ここの廊下で殺り合おうや」

 

池袋と陰島は3年A組前の廊下で、10mほど離れ、向かい合うようにして立った。

教室の中からは不良たちが、陰島の後ろからは葛沢が勝負を見守る。

 

池袋「ヨーヨーなんて、超凶悪で怖〜い武器を使おうってんだ、オレっちも武器を使っていいよなぁ?じゃないとビビって勝負になりゃしねぇ。あ〜オシッコ漏らしそぉ〜」

 

池袋は、右の尻ポケットから真っ赤なメリケンサックを取り出し、右手に装着した。

 

不良L「出たぁ〜!池袋さんの『鮮血の拳(ブラッディサック)!』

 

不良M「あのメリケンサックが赤いのは、今までケンカでぶん殴ってきた野郎どもの返り血を浴びているから!」

 

不良N「という噂を流すために、池袋さんが絵の具で赤く塗った最強装備だぜ!」

 

不良O「池袋さんがあれを使うってことは、本気だ」

 

不良P「あの1年、死んだなぁ〜〜〜ヒャッヒャッヒャッ!」

 

池袋はファイティングポーズを取る。

 

葛沢「陰島、ヤベェって!逃げるぞ!分が悪すぎる!ヨーヨーなんかで勝てるわけ……」

 

陰島「おい葛沢よ。お前はオレが何の勝算もなくここにきたと思っているのか?オレのヨーヨースキルと、このハイパーヨーヨーを信じろ」

 

池袋「お友達に遺言は伝えたか?じゃあそろそろ始めようぜ!オレっちは受験生なもんでな……お勉強しなくちゃならねぇから、暇な1年にかまってる時間ねーんだわ!」

 

陰島に向かって猛スピードで突っ込んでくる池袋。

陰島はヨーヨーを池袋の顔面に向けて投げる。

池袋は首を左に傾け、ヨーヨーをかわした。

 

池袋「ご自慢のヨーヨー、遅いねぇ!シャボン玉みたいに簡単に避けられちゃったよぉ〜」

 

2人の距離が縮まり、陰島は池袋のパンチの射程に入った。

池袋が右腕を振りかぶる。その時だった。

池袋が避けたヨーヨーがカーブし、陰島の右手とつながっているヒモが池袋の首にぐるぐると絡まる。

そして陰島は、ヒモを思い切り後ろに引っ張った。

池袋の首は絡まったヒモにより急激に締め付けられ、頸動脈が圧迫される。

池袋は白目を剥き、泡を拭きながらその場で倒れ、気を失った。

 

陰島「必殺……生締首締窒息奈落(いきしめくびしめちっそくならく)!!」

 

不良たちは数秒の沈黙後、慌てふためいた。

 

不良Q「池袋さんがやられたぁ〜?!」

 

不良R「何だこの1年?!化け物だぁ〜!」

 

不良S「ズラかるぞ!オレらも殺されちまう!」

 

不良T「ママぁ〜〜〜!」

 

不良U「I don't wanna die !」

 

不良たちは教室を出ると、駆け足で階段を降りていった。

3年A組の廊下の前には、陰島と葛沢、そして気絶した池袋だけが残った。

 

葛沢「……ごめん、オレが想像してた技のイメージと違ったわ。キルアみたいにヨーヨー本体をぶつけて攻撃するのかと……」

 

陰島「キルアのヨーヨーは50kgの重量があるからそういうのができるわけで、普通のヨーヨーをぶつけて人間を倒せるわけないと思うんですけど。ハンターハンターの読みすぎでは?」

 

こうして陰島は、目標通り池袋の討伐に成功した。

 

ーーーーーーーーー

翌朝

1年C組

 

数学教師の魔羅が、C組の教室の扉を開けて入ってきた。

 

魔羅「陰島ぁ〜!陰島はいるか?」

 

教室の一番前の席に座っていた陰島が立ち上がる。

陰島の元に近づく魔羅。

 

魔羅「お前だな?3年の池袋を病院送りにしたのは?」

 

陰島は自信満々に答える。

 

陰島「ご明察。オレがヨーヨーで、あのどうしようもない不良を懲らしめてやりました。どうです?先生にも、ヨーヨーの素晴らしさがわかったでしょう?これでヨーヨー部を……」

 

魔羅「なんて危ないことをしてくれたんだ!このたわけ者が!」

 

陰島「ええっ?!でも……」

 

魔羅「よりにもよって3年の成績トップ、難関国立大合格間違いなしの池袋を気絶させるなんて!お前のやったことは悪質そのものだ!」

 

陰島「ええぇっ?!アイツ頭よかったの?!」

 

魔羅「うちの高校は成績さえ良ければ、多少素行が悪くても目を瞑る。そういう方針です。それから、キミ、ヨーヨー持ってくるのは校則違反だから、没収させてもらいます。放課後に職員室に来ても、絶対に返しません」

 

そして陰島は、1カ月の停学処分をくらうことになった。

 

<完>