私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、裁判傍聴のレポートなどを書いている趣味ブログです!

【短編小説】トイレが長すぎた男

東京都・新宿は、日本で屈指の繁華街。新宿駅の乗降客数は世界一とされており、いかに多くの人が新宿に集まるかは、言うまでもない。

特に土日は、祭りでもやっているのかと勘違いしそうなほど路上に人があふれ、新宿駅近辺の飲食店は、開店から数分で満席になってしまうことも。

 

カフェ『KOHGAN(コーガン)新宿店』は、席数が300席以上あるが、土日の昼から夕方にかけてずっと満席状態が続く。この日もほぼ全ての席が埋まっていた。

常時300人近い人間が店内にいることになるものの、トイレは個室が男女1つずつしかない。誰か一人がトイレを長時間占拠してしまうと、長蛇の列ができてしまう。

そのような状況を察せられる人ならば、なるべく短時間でトイレを済ませるだろう。しかし世の中、察しの良い人ばかりではない。

ある男が、KOHGAN新宿店内のトイレでスマホを操作していた。とっくに用を足し終えているが、つい友人とのBOIN(ボイン)が盛り上がり、便座に腰かけ20分以上そのままだった。

 

コンコンコン

 

扉が3回ノックされた。

おそらく外で順番を待っている人がいるのだろう。

男は、確かに長くトイレを使ってしまったが、たかが20分少々。そんなに急かすこともないだろうと、内心少しイライラした。

 

???「大丈夫ですか?中で倒れたりしてないかなと思って!」

 

外から男性の声が聞こえる。声の感じから、40〜50代だろう。個室の中にいる男を心配して声をかけてくれたようだ。

もちろん、男は体調不良などではない。むしろ健康的な一本グソをブチかましたところだ。

 

男「大丈夫っすよ〜」

 

男は軽く返事をした。扉が隔てているので外にいる人の顔は見えないが、声色から気弱そうな感じがした。もう数分入っていても何も言ってこないだろう、と男が思ったときだった。

 

???「だったら早く出ろやボケェ!いつまで入っとんねんゴラァ!!!」

 

大声に驚いた男の背筋がピンッと伸びた。

さっきの男性と同じ声だが、声量と言葉遣いが全く違う。まるで強豪スポーツ部の中学3年生が、1年生を恫喝してるかのような剣幕だ。

 

???「オレの他にも待ってる人おんねんぞ!?なぁっ!?満席のカフェのトイレを何十分も占拠したら、他の客に迷惑がかかるって理解でけへんのかぁ!?カマキリでも分かるわぁぁ!」

 

扉の外から罵声を浴びせられながら、男はトイレットペーパーをクルクルと回し、紙を引きちぎり、肛門を拭く。

早く出なければ、扉の向こうで怒りをぶちまける男性に、何をされるか分からない。

 

???「どうせスマホいじっとったんやろ?そんなこと自分の席でやれや!長居するためにカフェ来てるんとちゃうんかぁ!?おぉん!?席は300個以上あるけどなぁ!トイレはお前が使ってる1つを、みんなで共有してるってのが分からんのかぁっ!!!?

 

怒声は止まらない。そしてその言葉は全て、男の胸に突き刺さる。トイレを我が物顔で使い続けた男に100%非がある。

汚らしい肛門を拭き終え、ズボンを履き直す男。すぐに外へ出ようと扉のドアノブに手をかけようとした。

 

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

 

扉が、壊れるのではないかと感じるほどの力で連打された。その回数と威力が、外にいる男性がいかに怒っているかを物語っている。

男は扉を開けるのをためらった。早く出れば許してもらえると思ったが、もう手遅れな状態かもしれない。それなら、外にいる男性が諦めて去るまで、こもり続けたほうがいい。

 

???「テメェまだ分からねぇのか!?早く出てこいこのクソ野郎がっ!!ぶっ●すぞこのクソ虫!……これでも出てここねぇか?なら警察と救急車呼ぶかぁ。中で、大変なことになってるかもしれないからなぁ。呼んでも当然だよなぁ!?」

 

外にいる男性は、あえて大事にするつもりだ。救急車や警察まで来られたら厄介なことこの上ない。

男は数発殴られることを覚悟の上で、鍵を開け、ドアノブを回した。

恐る恐る、トイレから顔を出す男。

そこには、誰もいなかった。

 

おかしい。つい数秒前まで確かに男性が、扉の目の前で怒り狂っていたはず。他にも並んでる人がいるとも言っていた。

しかし、誰もいないのだ。

 

男は店内の自分の席に、下を向きながら戻った。店内にさっきの男性がいるかもしれず、顔を見られたら絡まれるかもしれないと思ったからだ。

男はリュックに荷物を入れ、光の速度でカフェを後にした。

 

ーーーーーーーーーー

 

男は帰宅した。

リュックをリビングにあるソファに下ろすと、トイレに入り扉の鍵を閉め、ズボンを下ろし、便座にどっしりと座った。

さっきは恐ろしい目にあった。不可解な点もあったが、とりあえず怒鳴られたり、暴力を振るわれたりすることなく、無事に家に帰ってこれた。しばらくはあのカフェを使うのは控えようと、男はフゥッと息を吐いた。

やはり家のトイレは落ち着く。しかも一人暮らしだから、誰にも急かされることはない。

男は、くるぶしあたりまで下げたズボンからスマホを取り出した。

 

コンコンコン

 

扉が3回ノックされた。

 

<完>