キメラ=アントの王・メルエムは、「食べるほど強くなる」という能力を持っていました。
多種生物を食べることでその生物の能力を次世代に反映させることができる、キメラ=アントの女王の「接食交配」という特性を反映したものと思われます。
強くなれる上限はあるのかもしれませんが、実質修行なくしてドンドン強くなれる能力でした。
他者を食べることで、その者の持つ念能力などを、メルエム仕様にアレンジして体得できます。
作中では、東ゴルトー宮殿の兵士、プフ、ユピーを食し、能力を得ていました。
ただ、もう一つメルエムの能力で注目すべきポイントとしては、その回復力です。
ネテロが自身の死を引き換えに発動した「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」が直撃したメルエムは全身火傷と四肢が吹き飛ぶ瀕死の状態でした。
しかし、プフとユピーの身体を食べることで怪我は完全に回復しました(体内の毒を取り除くことはできませんでしたが)。
もし、メルエムは他者を食べることで自身の傷をも治せるのであれば、
自分で腕を引きちぎった時も、食事で回復すればピトーに治療してもらう必要はなかったのではないか?
と思うのです。この点について考察していこうと思います。
ピトーに治療させるのはデメリットが多かった
メルエムが腕を引きちぎった時というのは、コムギとの軍儀中のことです。
互いに何かを賭けて勝負しようと言い出したメルエムに対し、コムギは「命をかける」と返答しました。
コムギの覚悟を読み切れず、戯れに賭けを持ち出した自分を戒めるべくメルエムは自分の腕を引きちぎりました。
(引用:HUNTER×HUNTER 24巻30P/冨樫義博)
この治療にピトーが「玩具修理者(ドクターブライス)」を発動し、当たっていました。
宮殿内にはキメラ=アントの雑兵たちが多数いたので、それらをメルエムに食べさせれば回復を図れた可能性があります。
もちろんピトーも治療はできたのですが、それではキメラ=アント側全体にデメリットが多すぎたのです。
まずはピトーが「円」を使えないこと。
最大2km先まで届くピトーの「円」は、モラウたち討伐隊の宮殿侵入にとって大きな妨げとなっていました。
しかしピトーは「玩具修理者(ドクターブライス)」と他の念能力を併用することができず、メルエムの治療中(2〜3時間)は「円」を解かなければなりませんでした。
その隙にノヴが宮殿に侵入、自身の「四次元マンション(ハイドアンドシーク)」の出入り口を複数設置させることを許してしまいました。この出入り口は討伐隊が宮殿に侵入するための要となりました。
さらにピトーは、もう一つの能力「黒子舞想(テレプシコーラ)」で人間を操作していましたが、それらもすべて解除することとなりました。
これにより宮殿外の監視ができなくなったことに加え、宮殿内で異常事態が発生していることを討伐隊に伝える形となってしまいました。
このようにピトーにメルエムの治療をさせるには、かなりのデメリットがあり、この機に乗じて討伐隊の進行を許してしまうことになりました。
メルエムやプフは食事で回復できることを知らなかった?
ピトーによる治療を提案したのはプフでした。治療用の能力を持っているキメラアントはピトーのみでしたので、その考えに至るのは自然だったと言えるでしょう。
ただメルエムが他者を食べることで体を回復させることを知っていれば、適当にキメラアントや、操作している人間を食べさせることで回復させた方が、先述のデメリットを発生させることはなかったと思います。
しかしプフがそうしなかった理由の一つに、メルエムが他者を食べて傷の回復ができることを知らなかったことがあるでしょう。
これは仕方のないことです。それまでメルエムは一切の傷を受けていませんでしたので、能力の全容を知る機会はありませんでした。
ネテロ戦後のメルエムを食事によって回復させたのも、プフとユピー的には半信半疑で行っていた感じでしたからね。
(引用:HUNTER×HUNTER 28巻173P/冨樫義博)
メルエムがコムギと軍儀をしていた時、プフ始め護衛軍たちですらメルエムの能力を全て把握していたわけではなかったと思われます。
ちなみにメルエムも自身の能力を全て把握していたのか微妙です。
修行をしたわけでも水見式を行ったわけでもありませんでしたので、自分の念についてはほとんど分かっていなかった可能性もあります。
回復量の問題
もし仮にプフがメルエムの能力を知っていたとしても、キメラ=アントの雑兵たちや人間を食べさせたところで、どの程度メルエムが回復するかは疑問が残るところです。
千切れた腕をつなげる、または改めて生やすだけのエネルギーになったのかと。
「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」が直撃したメルエムを回復させるためには、プフとユピーの身体の大部分を必要としました。
他のキメラアント以上のオーラの量と質を誇るであろう護衛軍2匹が体の大半を差し出すことで、ようやく回復するレベルでしたから、有象無象をいくら食べたところで回復量はたかがしれていたかもしれません。
特にメルエムの強靭な体を回復させるとなると、並の生物では腕の治療にもならなかった可能性があります。
(引用:HUNTER×HUNTER 29巻9P/冨樫義博)
あの時点で護衛軍の誰かが自分の身体を差し出すことはまずなかったでしょう。
メルエムはキメラ=アントになりうる人間を見つける「選別」をろくに行わず、コムギと軍儀ばかりしていました。
この状況下で護衛軍の誰かが欠けた場合、「選別」も進みませんし、討伐隊も動いており、なおかつ師団長の中には王の座を狙う者もいたので、護衛軍が崩れるわけにはいきませんでした。
食事もとらず軍儀軍儀&軍儀
メルエムはコムギとの出会いで軍儀にはまってしまいました。いや、軍儀にというより、コムギのことを好きになっていました。コムギと軍議をしている時間が楽しくて楽しくて仕方がなくなってしまったのです。
その熱中具合といえば、食事も睡眠も取る間を惜しむほどでした。この状態のメルエムに何かを食べさせるというのはかなり難しいことだったと思います。
終盤はだいぶ丸くなったメルエムでしたが、コムギと軍儀をしている時のメルエムはまだまだ荒れており、自分の気を反らすような相手はたとえ護衛軍であろうとも殺す気でぶん殴るほどでした。
言うことを聞かせるのは無理だったでしょうね。
(引用:HUNTER×HUNTER 24巻32P/冨樫義博)
メルエムが何かを食べてくれない以上はピトーが治療するしかなかったでしょう。
さすがにメルエムといえど腕が切れた状態を放置するのは危険です。傷がもとで死ぬ可能性もありますし、討伐隊が動いていることからもメルエムは万全の態勢でいなければなりませんでした。
軍儀を中断させることなく腕を治すための苦肉の策として、ピトーの治療だったというわけですね。
当時の状況ではやはりピトーに治してもらうのがベスト
メルエムの腕を治すのは、食事によっても可能だったとは思います。しかし、
- 護衛軍がメルエムの能力を把握仕切れていなかった
- 腕の回復に適したエネルギー源が少なかった
- メルエムは意地でも食事を取る気はなかった
これらの理由から、デメリットを伴ってもピトーに治療させるしかなかったと私は考えました。
護衛軍は、最悪メルエム以外のキメラアントが死んでも、メルエムだけが生き残ればそれでよしという考えでしたからね。不利な状況に追い込まれようが、目前のメルエムの危機を取り去るのが最優先だったのでしょう。
1匹でも化け物のように強い護衛軍が、メルエムを命を賭して守ろうとするのは人間たちにとっては非常に厄介でした。が、この徹底した使命こそが「むしろ王を倒せばキメラアント全体が目的を失い瓦解する」というヒントを人間に与え、ネテロに討伐隊とゼノの「龍星群(ドラゴンダイブ)」を囮に自身は直接メルエムを狙うという作戦を取らせてしまったとも言えますね。
合理的に考えると、討伐隊を侵入させずにメルエムを治療する方法もあったのですが、護衛軍たちにとってはメルエムの意志は絶対。「ウルセェ!軍儀がしてぇんだよ!」という意志を何よりも優先した結果、非合理な手段をとらざるをえなかったわけですね。
横暴な上司の下で働く部下というのは、人間もキメラ=アントも大変です。
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