私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、ウォーキング(散歩)の記録などを書いている趣味ブログです!

【短編小説】初心者にアドバイスするプロ脱出ゲーマー

東京都内の某繁華街にあるビルの24階。

空野 俊治(そらの しゅんじ)がエレベーターを降りると、そこには学校の教室くらいの空間が広がっていた。

床も壁も天井も黒に近い灰色で塗られ、天井に取り付けられた10個ほどのライトと四隅のスピーカーだけが目立っている。

ゲーム開始まで、この空間で待たされるようだ。 

 

空間には男女が数名。空野と同じく、このフロアで行われる脱出ゲーム『ZERO-ONE』の参加者だろう。

ゲームの開始時間は14:00で、現在は13:30。

かなり早く到着したので、一番乗りかと思っていた空野だったが、自分よりもっと早く着いていた参加者がいることに驚いた。

相当やる気があるのだろう。

 

元々は、大学の友人と一緒に参加する予定だった空野。

しかし友人が風邪をひいて寝込んでしまったため、一人で参加することになった。

脱出ゲームが日本の各所で開催されていることは知っていたが、空野自身、ゲームに参加したことは1回もない。完全な初心者だ。

 

???「やぁ。見ない顔だな。キミ、ここは初めてだろ?」

 

空野より早く到着していた参加者の一人が近づき、声をかけてきた。

年齢は40〜50代くらいの男性で、ドラ●もんの顔が描かれたエメラルドグリーンのスウェットを着ている。どこにでもいそうな男性だ。

 

空野「はい、脱出ゲーム自体初めてで……」

 

祭木「なら、オレがいろいろ教えてやるよ。まずは自己紹介からだな。オレは祭木 健吾(まつりぎ けんご)ってんだ。キミは?」

 

空野「空野 俊治といいます」

 

祭木「空野くんね。なるほど、なかなか見どころがありそうだ。そもそも『ZERO-ONE』は会場にたどり着くことすら難しく、開催地や開催時間の情報すら表には出回らない。キミもダークウェブで『ZERO-ONE』の情報を仕入れたクチか」

 

空野「いえ、普通にネットで調べたら公式サイトが出てきました」

 

祭木「……まぁいい。オレの自己紹介を続けさせてもらうぜ。ちょうどキミくらいの歳の頃、オレも脱出ゲームに魅了されてね。以来27年間、世界各地の脱出ゲームにチャレンジしてきた。オレのことを『プロ脱出ゲーマー』と呼ぶヤツも少なくない。自分ではプロだなんて思ってないんだが、周りがプロと言うなら、プロなんだろう」

 

空野「へぇ〜、長くやられてるんですね」

 

祭木「そしてこの脱出ゲーム『ZERO-ONE』だが、年に1回大幅にリニューアルされ、前年と全く違う内容のゲームになる。難易度は世界でもトップクラス。だから毎年、世界各国のトップ脱出ゲーマーたちがこの地に集まるんだ。リニューアルされるといっても、ゲーム全体の構造は毎年同じ。第1ステージから第5ステージまであり、徐々に問題のレベルが上がっていく。各ステージをクリアできなければその時点で脱落。第5ステージをクリアできれば脱出成功だ」

 

空野「あ、ありがとうございます!いいのかな?ヒントもらっちゃって」

 

祭木「正直、この程度のヒントを与えたところで、初参加のキミがクリアできるようなゲームじゃない。これから参加者同士の壮絶な蹴落とし合いが始まる。一流の脱出ゲーマーたちの争いに、キミは巻き込まれることになるんだ」

 

空野「ええぇ……なんか物騒ですね……」

 

空野が乗ってきたエレベーターの扉が開き、3人組の男性たちが降りてきた。

 

祭木「五味3兄弟(ごみさんきょうだい)。やはり今年も参加してきたか。兄弟での協力プレーを得意とする、強豪脱出ゲーマーだよ。長男の孝義(たかよし)が高いリーダーシップで兄弟たちをまとめ、次男の俊(しゅん)が空手で鍛えたパワーで力作業を担当する。三男の雅人(まさと)は3兄弟で唯一のお母さん似だ」

 

空野「お知り合いなんですか?」

 

祭木「まぁな。過去に何度か、脱出ゲームでやり合ったことがある」

 

またエレベーターが動き出し、扉が開く。

スーツに銀縁眼鏡をかけた、エリート会社員のような佇まいの男性が降りてきた。

年齢は空野より一回りくらい上。30代半ばといったところだろうか。

 

祭木「頭を使うゲームでヤツの右に出る者はいない。坂野 智宏(さかの ともひろ)。小学1年生の頃から週4で塾に通い、小学2年生で九九をマスター。中学3年生で英検3級に合格。特技はルービックキューブを2面そろえること。ガキの頃からIQを高めてきた筋金入りの頭脳派ゲーマーだ。最終学歴は早稲田大学卒。5浪したそうだが」

 

空野「……すごいのかすごくないのか、よく分からない……」

 

坂野の後を追うように、女の子がピョンとエレベーターから降りてきた。

背格好からして、小学生だろう。

 

空野「あんな小さい子まで参加するんですね!すごいなぁ〜」

 

祭木「見た目に騙されるな。アイツは如月 真奈(きさらぎ まな)。持ち前のベビーフェイスと小柄な体格で参加者の男どもを魅了し、自身の脱出に利用する『魔女』だ。ゲームの途中まで散々協力せておき、最後には裏切る。裏切りは如月にとって呼吸するも同然だ。一見すると小学5年生くらいに見えるが、実年齢は82歳。今回のゲームの参加者では最高齢だろう」

 

空野「ええぇ……82歳……」

 

???「祭木さん、久しぶりですね。私も、初参加の彼とお話……正確には取引をしたいのですが、よろしいですかな?」

 

髪型はオールバックで、赤ワインのような色のスーツを着た男性が、祭木の背後から声をかけてきた。

年齢は祭木と同じくらいの、紳士風の男性だ。

 

祭木「すまないが、お取り込み中だ。失せな、ゲス野郎」

 

紳士風の男性は祭木を一瞥すると、何も言わずに立ち去り、腕を組んで近くの壁に寄りかかった。

 

空野「大丈夫なんですか?あんな失礼な態度とっちゃって」

 

祭木「勘違いするなよ。オレはキミを守ったんだぜ。ヤツとの取引には応じない方が身のためだ。キミにとってどんなに有利な取引でも、待っているのは『破滅』だろう。Mr.クエスチョンこと、田島 進(たじま すすむ)。脱出ゲーマーでありながら、自身で脱出ゲームを運営するゲームマスターでもある。田島の脱出ゲームをクリアできた者は過去に0人。オレも参加したことがあるが、あまりに退屈だったもんで、すぐ自主棄権(リタイア)したよ。くだらねぇったらありゃしねぇ。妻子も愛想を尽かして家出するほど、身も心も脱出ゲームに取り憑かれた不憫な男さ」

 

祭木が田島の説明を終えた直後、エレベーターの扉が開く。

すらっと伸びた足が特徴的な、長身の男性がエレベーターから降りてきた。

上下白っぽい服装をしているが、所々赤く染まっている。返り血だ。

 

???「ふぅん……今回の参加者は、なかなか骨がありそうだねぇ……」

 

祭木「アイツに話しかけるのはもちろん、近づくのもやめた方がいい。ヤツの名はマイケル吉沢(よしざわ)。昨年、ゲームスタッフを拷問して脱出方法を聞き出し、失格になった男だ。拷問されたスタッフが発見されたとき、左手の指と舌がなくなっていたそうだ。現在も入院中らしい。マイケルはゲームを暴力で解決しようとする、人間の皮を被った獣だ。あの返り血を見てみな。この会場に来るまでに、スタッフを何人か殺ってやがる」

 

空野「ええぇっ?!犯罪者じゃないですか?!」

 

祭木「『ZERO-ONE』の参加者はそんなヤツばっかりだぜ。みんな何かしら、脛に傷を持っている。犯罪者といえば、隅にいる男が見えるか?」

 

祭木が視線を向ける先に、空野も目をやる。

肩まで伸びたロン毛に口髭を生やし、動物の毛皮で作ったような上着を羽織る初老の男性が、目を閉じてあぐらをかいていた。

 

祭木「オレが『プロ脱出ゲーマー』なら、ヤツは『レジェンド脱出ゲーマー』と呼ぶべきだろう。緋山 剛十郎(ひやま ごうじゅうろう)。さまざまな脱出ゲームを攻略してきた生ける伝説。自叙伝も出版され、飛ぶように売れた。その数、210部。少ないと思うかもしれないが、脱出ゲーム界隈でそれだけ売れれば充分ベストセラーさ。富も名声も手に入れたはずの緋山だが、それでも物足りず、殺人を犯して網走刑務所に入り、そこからも脱走した。現在全国指名手配中で、ヤツの首には500万円の懸賞金がかけられている。緋山を捕まえるために、このゲームに参加してる連中も多いって話だ」

 

空野「ええぇっ?!脱獄囚?!……もしかしてボク、とんでもない場所に来ちゃったのかも……」

 

祭木「今さら気づいたのか?でももう遅い。このフロアに入ったら、逃げ帰ることはできない」

 

再びエレベーターの扉が開く。

スキンヘッドで、身長2m30cmくらいありそうな大男と、その肩に腰掛ける金髪女性が降りてきた。

 

???「オレ……コイツラ……食ッテイイ……?」

 

女性は手に持った、ワイヤー製のムチのようなものを振り、大男の背中を引っ叩いた。

 

???「ダメよ。私が許可するまでおとなしくしてなさい。ゲームはまだ始まってないんだから」

 

祭木「厄介なヤツらが来やがった……『魔獣使い』ジェシカ=ジェラルドと、その『ペット』モンスター・B。ジェシカはアメリカの元マフィアで麻薬の売人。そしてジェシカが売れ残った薬を使い、シャブ漬けの下僕にした実の夫がモンスター・Bだ。理性を失い人肉を貪ること以外考えられなくなった魔獣モンスター・Bを、ムチで意のままに操り、他の参加者を皆殺しにするのがジェシカの常套手段。自分たちがゲームをクリアすることではなく、他の参加者を脱落させることを優先するクレイジーカップルさ」

 

祭木「もうヤバい人しかいない……」

 

祭木「そして……」

 

祭木は自身の背後に視線を向ける。5mほど離れた場所に、黒いフードを被った男がズボンのポケットに手を入れ、壁にもたれかかるように立っていた。

男は頭の上から足先まで黒一色。顔はフードで隠れていてよく見えない。

空野が会場に着いたとき、この男はいなかったはず。

空野より後に来たことは確かだが、いつフロアに入ってきたのか、気づきもしなかった。

 

祭木「アイツはこのオレも知らない。おそらくキミと同じ初参加者だろう。が、只者じゃないな。他の連中と纏ってるオーラが違う。なぜ分かるかって?経験が生む勘ってやつさ。アイツも確実に、要注意人物の1人だな」

 

空野「はぁ……」

 

???「みなさまお集まりいただきありがとうございます!ようこそ!脱出ゲーム『ZERO-ONE』へ!」

 

天井の四隅に設置されたスピーカーから、明るい女性の声が流れる。

 

祭木「さぁ、始まるぞ。厳しいゲームになるだろうが、お互い脱出できるように頑張ろうな」

 

空野「はい!いろいろ教えていただき、ありがとうございました!」

 

女性「これからみなさんは、この先に用意された個室に1人ずつ入ってもらいます!個室には机があり、その上にカードが置かれています!カードにはクイズが書かれていますので、制限時間1分以内に答えをその場で言ってください!正解なら次のステージへの扉が開きます!不正解なら床が開き、そのまま1階まで落下していただきますので、ご了承ください!」

 

空野「ええぇっ?!ここ24階だぞ!?不正解なら死ぬってことぉ!?」

 

祭木「ふん!やはり『ZERO-ONE』はこうでなくちゃな」

 

女性「ではエレベーターから向かって右手側の壁にある扉の前に、一列にお並びいただき、私のアナウンスに従って1人ずつ中にお入りください!」

 

命をかけた脱出ゲームが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

空野の順番が回ってきた。

扉を開けて中に入ると、アナウンスの女性の言っていた通り、2畳ほどの個室の真ん中に机と、その上にカードが置かれていた。

 

女性「さぁカードに書かれたクイズをご覧ください!回答までの制限時間は1分です!それではどうぞ!」

 

カードの内容を見る空野。

 

“幼稚園に通う子どもの近くで働く仕事ってな〜んだ?”

ヒント:幼稚園の先生じゃないよ!

 

空野「幼稚園に通う子供……幼稚園……子供……すなわち園児。園児の近く……近く……近くを別の言語に置き換えると……?near(ニア)!園児……ニア……分かったぞ。答えは『エンジニア』だ!」

 

女性「ピンポ〜ン!正解で〜す!それでは向かい側にある扉を開き、第2ステージにお進みください!第2ステージは参加者全員が第1ステージをクリア後に開始しますので、今しばらくお待ちください!」

 

空野は指示に従って扉を開ける。

そこには、さっきまでいた空間と同じような部屋が広がっていた。

黒に近い灰色の空間。天井の四隅にスピーカー。

空野以外に誰もいない。どうやら空野が第1ステージの初クリア者のようだ。

 

空野「クイズは何とか解けたが、まだまだ先は長い……危ない参加者も多いみたいだし、とにかく油断は禁物だ……!」

 

30分後

 

スピーカーから女性の声が流れる。

 

女性「これにて、第1ステージ終了〜!第2ステージに進んだのは……初参加の空野さん1名!おめでとうございます!!」

 

空野「いや最初に出てきたヤツら全員落ちてんのかいっ!!!」

 

<完>