私の名前はジロギン。

HUNTER×HUNTERなどの漫画考察や、怪談・オカルト・都市伝説の考察、短編小説、ウォーキング(散歩)の記録などを書いている趣味ブログです!

【短編小説】鉄格子に顔が挟まって抜けなくなった泥棒

砂山 光利(すなやま みつとし)は、ワンルームのアパートに住む27歳の男性。

砂山の部屋は1階のため、防犯や住人のプライバシー保護の観点で、窓は全てすりガラスになっている。

特に部屋の西側の壁にある小窓は、すぐ隣が駐車場で誰でも立ち入れるスペースであることから、すりガラスの外側に鉄格子もついている。刑務所のようだが、砂山にとってこの鉄格子の存在はありがたい。

というのも、この西側の窓を開けておくと涼しい風が入ってくるのだ。今のような夏場は大変助かる。砂山自身、部屋の中では黒い半袖のシャツと短パンで、涼しくして過ごすようにしているのだが、それだけで乗り切れるほど東京の夏は甘くない。

特に夜は西側の小窓を開けないと暑くて眠れない。しかし開けっぱなしにしておけば「誰でもどうぞお入りください」と言っているようなもの。だからこそ侵入を防ぐ鉄格子の存在はありがたいのだ。

 

朝の光が部屋に差し込み、ベッドの上で上半身を起こす砂山。

寝ぼけ眼で部屋を見回す。いつもと変わらない部屋、のはずだった。

砂川から見て左手、ベッドと隣接している壁の上の方。開けていた西側の小窓の鉄格子に、男の頭が挟まっている。

 

砂山「うわぁぁぁぁぁっ!!なんだこのド変態はっ!?」

 

驚きの声を上げる砂山。

鉄格子に挟まっている男も、砂山の声を聞き驚いた表情を浮かべた。

黒髪の角刈りで無精髭を生やした、40代中盤くらいの小太りな男。砂山の知り合いではない。

ほぼ間違いなく、砂山の部屋に侵入しようとしてきた泥棒だろう。

砂山は枕元に置いていたスマートフォンを手に取る。

 

男「あっ、待って!警察だけはやめて……オレ、妻と子供がいるし、会社にもこんなことがバレたら生活できなくなっちゃうから……」

 

砂山「はぁ!?家族がいて働いてるのに泥棒しようとしたんですか!?」

 

男「ほんの出来心で……ちょっとお金に困ってたんだ……酒を飲んで家に帰る途中、開けっぱなしの窓が見えたんで、中に入ってお金になりそうな物を頂戴しようと……そしたら鉄格子に頭が挟まってしまってね、あはは」

 

砂山「あははじゃねーよ。完全に泥棒ですね」

 

男「待って!確かにオレは泥棒をしようとしたさ!でも昨日の夜は酔っ払ってて正常な判断ができなかったんだ!魔が差しただけで、普段のオレはこんなことをする人間じゃない!真面目くんなんだよ!」

 

砂山「酒を飲んだ後の姿こそ、その人間の本性です。酒はその人を暴く。つまりアンタは泥棒をすることに何ら抵抗のないクズ人間ってことだ」

 

男「お、落ち着いて!それによく考えてよ!結局オレはこうして顔が鉄格子に挟まって、泥棒はできていない!何も盗んでないじゃないか!」

 

砂山「そうかもしれませんが、無断で敷地内に入ってますよね?鼻先くらいはボクの部屋の中に入ってますよね?不法侵入になるんじゃないですか?」

 

男「だとしても、キミに損はさせてないだろう?だから警察だけは勘弁して!ね?人助けだと思ってさぁ〜」

 

確かに男は何も盗んでいない。

右手に持っていたスマートフォンを枕元に戻す砂山。

 

砂山「……分かりました。でもアナタどうするんですか?顔が挟まって動けないんですよね?」

 

男「そうなんだよ……迷惑ついでに、助けてもらえないだろうか?後ろから引っ張ってもらったり、油を使って滑りやすくしてもらったり……」

 

砂山「何でそんなことしなきゃならないんだ……せっかくの休日が、泥棒を助けることからスタートだなんて」

 

男「お願いだよぉ〜……もちろんタダでとは言わない!助けてくれたら朝ごはん奢るから!松屋行こう!松屋!」

 

砂山「安く済ませようとしてやがる!そうか、コイツお金に困ってるって言ってたもんな」

 

男「一生のお願いだよぉ〜」

 

砂山「はぁ……まぁ、いつまでもここにいられても困るんで、助けますよ」

 

男「あ、ありがとう!キミは恩人だ!」

 

砂山はベッドから降りると、足側の壁にあるクローゼットを開け、中から手斧を取り出した。

 

男「え?何で斧持ってるの?」

 

砂山「別にいいじゃないですか。これで鉄格子を切断します。外側に回るので、ちょっと待っててください」

 

砂山は部屋を出て、男が挟まっている鉄格子の外側に回り込んだ。

スーツ姿で中腰になり、お尻を突き出したポーズのまま身動きが取れなくなった、間抜けな男の姿に笑いそうになる砂山。

 

砂山「……じゃあ切断しますよ。1回で切るのは無理だと思うんで、ちょっと我慢してくださいね」

 

男「頼むよ!」

 

砂山は両手で斧の持ち手を握り、振り下ろす構えをする。

 

砂山「……」

 

男「……」

 

砂山「……」

 

男「……え?どうしたの?早くやってよ……」

 

砂山「……」

 

男「……」

 

砂山「……」

 

男「……も、もしかして、オレの首を切り落とした方が早いとか考えてないよね?」

 

砂山「……」

 

男「いやなんか答えてよ!怖いよっ!えっ!?やらないよね!?首切らないよね!?」

 

砂山「……ボク、3日前、会社の上司にミスを押し付けられて、取引先にめちゃくちゃ怒られて、はらわたが煮えくり返る思いをしたんですよ……なんか今、ふとその感情が蘇ってきました……じゃ切りますよー」

 

男「ちょっと待って!!オレの首切って憂さ晴らししようとしてないっ!?仕事のストレスを、オレの首を切ることで発散しようとしてないかっ!?」

 

構えた斧を、一度下ろす砂山。

 

砂山「え?何言ってるんですか?そんなわけないでしょ〜。鉄格子を切るって言ってるんですよぉ〜」

 

男「そ、そうだよね……じゃあ頼むよ」

 

砂山は斧を構え直す。

 

砂山「……そういえば、その仕事の愚痴を電話で彼女に話したら『気分が悪くなったから別れたい』って言われて、昨日LINEをブロックされちゃったんだよなぁ……本当に腹が立つよなぁ……じゃ切りますね〜」

 

男「いや待って何でそんな不満言うの!?切る前に!?だから怖いのよ!その不満を斧に乗せ、オレの首に向けようとしてそうで怖いのよ!」

 

砂山「だから、何言ってるんですか!鉄格子を切るんでしょ?信じてくださいよ!」

 

男「初対面だから!初対面だから信用できんのよっ!泥棒に入ろうとしたオレが言うのも違う気がするけど、信用できんっ!」

 

砂山「大丈夫ですから。ね?信じて。逆にいいんですか?このままだったら、通りがかった人に警察呼ばれますよ?」

 

男「……そ、そうだよな……失礼、オレが悪かった!キミを信じるよ!」

 

砂山は斧を握る手に力を込める。

 

砂山「……やっぱり、こうやって他人の生殺与奪を握るのって、凄まじいほどの優越感があるよな……最近のストレスが一気に吹き飛ぶ気分だ……じゃ切りますね〜」

 

男「やめて!なに生殺与奪を握る優越感って!?確実にオレの首を切ろうとしてるじゃん!殺そうとしてるじゃん!」

 

砂山「だーかーらー!鉄格子を切るって言ってるでしょ?もう本当にどうなっても知りませんよ!正直、アナタの人生なんて、ボクにとってはミジンコほどどうでもいいんですから!」

 

男「ぐっ……くそぅ……怖い……が……ふぅ……よし!大丈夫!覚悟ができた!もうキミがなにを言っても止めない!やってくれ!」

 

砂山「じゃあ、いきますよー」

 

砂山の振り下ろした斧が、男の首に深々と突き刺さった。

男の皮膚は破れ、筋繊維がブチブチと切れ、頚椎の間に刃が食い込む。開封したシャンパンのように血が噴き出す。

砂山にとって、普段のストレスを発散するための「日課」に相応しい人物が、こんな形で現れるとは思ってもみなかった。

いつも、首を切り落とす人間を調達するのに一番手間がかかる。

 

<完>