2009年6月13日
貞操第一(ていそうだいいち)小学校の保健室では、5年2組の身体測定が行われていた。
体操服を着て、身長測定器に背を向けて立つ綿登カズタカ(わたのぼりかずたか)。保健室の中には、名簿順で最後のカズタカと、女性の保健室の先生のみ。
先生が降ろした測定器のバーが、カズタカのつむじに当たる。鉄製のバーは少しひんやりしていた。
保健室の先生「身長……142.6cm」
昨年から5cm近く背が伸び、満足そうな表情を浮かべるカズタカ。すぐ隣に置いてある座高測定器に移動し、腰をかける。
保健室の先生「座高……229.7cm」
カズタカ「……えっ!?229?えっ!?」
保健室の先生「おかしいわね、座高のほうが90cm近く高いなんて……測り違いかな?もう一回やり直しましょう。座高……231.6cm」
カズタカ「伸びてる!?先生さっきより伸びてるんだけど!?どういうこと!?」
保健室の先生「でも確かにメモリは231.6cmを指してるのよね……」
カズタカ「そんな……身長ならまだしも座高が230cmを超えてるなんて聞いたことないよ!絶対におかしいって!これじゃプロレスラーじゃないか!」
保健室の先生「しかもアメリカのプロレスラー並みよね」
カズタカ「ボクの体に何が起きてるんだ……何か、とんでもないことが起きてるんじゃ……」
保健室の先生「ところで、カズタカくん……大きくて立派なお尻してるわね……つい触りたくなっちゃう。というか、かぶりつきたくなっちゃう❤︎」
カズタカ「こんなときに誘惑すんなこの痴女保険医!!ボクの体に異常が起きてるってときに!それでもアンタ医療に携わる者の端くれかぁっ!……ん?先生、今なんて言いました?」
保健室の先生「大きくて立派なお尻」
カズタカ「ボクのお尻、そんなに大きいですか?お母さんからはむしろ、小さくてプリッとした白身魚のようなお尻って言われるのに」
カズタカは右手で自分の右尻に触れた。尻が膨れ上がっている。
ニキビができているなんてレベルではない。ブーブークッションの上に座ってるかのようだ。しかも12個くらい重ねたブーブークッションの上に。
思えば今、普段イスに座っているときよりも、はるかに視線が高い。
カズタカの座高が異様に高い原因は、大きく膨れ上がった尻にあったのだ。
カズタカ「うわぁぁぁっ!ヤバいよ!どうなってんの先生!ボクのお尻!」
保健室の先生「私はそれくらい大きいお尻のほうが好きだけど」
カズタカ「異常性癖!この異常性癖痴女保健医がっ!……でもアンタに頼るしかないんだ!先生!ボクのお尻を手当して!」
保健室の先生「手当って言っても、ここにある器具だけじゃ大したことはできないわよ」
カズタカ「お願い!今すぐなんとかして!」
カズタカは座高測定器から、部屋の隅に置かれたベッドに、ネコから逃げるネズミのように怯えながら移動した。ベッドの上にうつ伏せになってズボンをずり下ろし、尻を露出させる。
カズタカの両尻は、相撲の新弟子検査で身長を偽るため頭皮にシリコンを注射した関取候補者の頭のように腫れていた。
保健室の先生「仕方ない……メスならあるから、お尻を少し切ってみましょう。中から出てきたものによって処置が変わるわ。水なら、ものすごくデカい水ぶくれってだけだろうから、水を全部出し切って終わり。でも血が出たら即病院送りよ」
カズタカ「……分かった。先生頼むよ!切って!」
保健室の先生は机の引き出しから1本のメスを取り出し、茶色い消毒液を刃にかけた。そしてカズタカが寝ているベッドの隣に立ち、左尻にメスを当てる。
保健室の先生「合図をしたら切るわよ。ちょっと痛いけど、ガマンしてね。じゃあカウントダウン、59……58……57……」
カズタカ「長いよ!時限爆弾かっ!早く切れぇぇ!Do it now!!!」
保健室の先生は、カズタカの尻を3cmほど切り開いた。
傷口から黄緑色の汁が吹き出し、保健室の先生の左目にかかる。
汁は保健室の先生の皮膚、筋肉、眼球そして骨を溶かし、脳髄にまで達した。
保健室の先生「強酸!!!?ぐぬわぁぁ!こ、このガキィィィ!なに……し……やがっ……た……」
保健室の先生は、糸が切れた操り人形のように、床に崩れ落ちた。
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カズタカ「オレの尻汁(しりじる)が初めて溶かしたものは、その保健室の先生だったってわけさ。以来、定期的に汁を抜かないと座高が高くなる不便な生活を送ることになったが、この尻汁に助けられるときが来るとは……不思議なもんだ。すまなかったな、新兵。つまらない思い出話に付き合わせちまって」
若者「いえ!人類の希望であるカズタカ大佐の尻汁のルーツを聞けて、光栄であります!」
2041年10月7日
急速に進化したAIは、人間を「不要な生命体」とみなし、地球上にあるすべてのロボットをコントロール。人類に戦争を仕掛けた。
まるでこの戦争を予期していたように特殊な金属で作られたロボットは、人類の兵器を一切寄せ付けない。
戦争は完全にAIとロボット軍が優勢だった。
2047年6月13日
人類のおよそ93%が死滅。
数少ない生存者たちは、出身国も人種もバラバラなレジスタンスを結成し、最後の足掻きを見せていた。
誰もが人類の敗北を覚悟していたが、レジスタンスの一人であるカズタカの尻から抽出される強力な酸性の汁が、ロボットの外殻を溶かす唯一の方法だと判明。
この日、人類の反撃が始まった。
<完>