東京都代表校の1つである山吹中テニス部は、ダブルスが強いことで有名です。
『テニスの王子様』作中の1年前は、団体戦のダブルス2組とも全国大会に出場しているとのこと。その2組のうちの1つが地味'S(ジミーズ)で、山吹中最強のダブルスペアでもあります。
ダブルスの基本を極めた地味'S。しかし人間離れした猛者がそろう全国レベルのダブルスかというと、実際の全国大会を見た読者視点だと疑問に感じるかもしれません。
しかし地味'Sはダブルスとして非常に強く、試合描写を見ると全国に行ったという実績は伊達ではないと思えるのです。
そこで本記事では、地味'Sが全国レベルのダブルスであることを証明するべく、その強さについてまとめていきます。
地味'S(ジミーズ)とは?
地味'Sとは、山吹中の南 健太郎(みなみ けんたろう)くんと東方 雅美(ひがしかた まさみ)くんによるダブルスペアの通称です。地味なものの、そつがないプレーを得意としていることから地味'Sと呼ばれています。あと2人ともちょっと影が薄い。
戦い方に派手さこそない地味'Sですが、彼らはダブルスの基本戦術をマスターしており、これといった弱点がないのが大きな強み。そして連携プレーで自分たちの必勝パターンに持っていく姿は、後述しますが中学レベルを超えていると思います。
『テニスの王子様』作中1年前に全国大会へ駒を進めた地味'S。つまり南くん、東方くんは2年生の時点ですでに全国へ勝ち進めるだけの実力だったということです。戦績だけで見れば、当時の青学ゴールデンペアと互角。
3年になった年もゴールデンペアと接戦を繰り広げ、惜しくも負けたものの2年連続で全国大会へ進出しています。地味にかなりハイレベルな戦績を残していますね。
地味'Sの戦い方と強さ
南くん、東方くんは個々にこれといった必殺技がなく、超人的なスーパーショットを繰り出す選手が多い『テニスの王子様』の環境には追いつけていないように思えます。
確かに個人の力では他校選手に劣るかもしれない地味'S。しかし、ダブルスのスキルは現実のテニスに置き換えても非常にレベルが高い上、『テニスの王子様』の世界でもかなりハイクオリティなのです。全国まで勝ち進んだというのも、うなずけます。
そこで地味'Sが作中で披露した戦い方と、それを踏まえた強さを考えていきます。
ペアによる連携プレー
そもそもの話ですが、現実の中学生ダブルスにおいて、ペア同士がきちんと連携をとってプレーできることだけでめちゃくちゃレベルが高い……!正直シングルスが強い(個人のテニススキルが高い)2人を雑に組ませるだけでも、そこそこ強いダブルスができてしまうので、団体戦ではシングルスの部内ランキングで上位4人を、シングルスにもダブルスにも出場させるという部活は少なくないでしょう。
実際のダブルスは奥が深く、本当の意味でダブルスをするのは難しいことなのです。
現実世界だけでなく『テニスの王子様』の世界でも、シングルスが強い2人を組ませてダブルスに起用するというケースが度々見られました。
例えば、都大会準々決勝で不動峰は、舐めプ状態の氷帝を確実に3タテするため、シングルスプレーヤーである神尾くんと伊武くんをダブルスに選出。
また全国大会2回戦で比嘉中は、平古場・知念ペアをダブルス2に起用。知念くんは前の六角戦でシングルスに出場していましたし、平古場くんは個人の技こそ強いもののダブルスとして連携しようとはしていませんでしたので、この2人はダブルス専任の選手というわけではなさそうです。
相手チームや自分チームの状況にもよりますが、シングルス向きな選手にダブルスをやらせるという動きは、『テニスの王子様』の世界でも起きているのです。
しかし「シングルスが強い2人を一緒にコートに入れてプレーすれば勝てる」のであれば、ダブルスをする意味はありません。やはりダブルスで強いのは、2人でプレーすることの強みを発揮できているペアです。
その面で見ると、後述する連携プレーをメインの戦い方にしている地味'Sは、中学生の時点ですでに完成された、ハイレベルなダブルスペアだといえます。全国広しといえど、ペア同士のプレーが噛み合い、本当の意味でダブルスとして戦えているペアはあまり多くありません。
一人を集中攻撃して相手のフォーメーションを崩す
都大会決勝で青学ゴールデンペアと対戦した地味'S。試合開始直後、地味'Sは大石くん一人にボールを集め、集中攻撃を仕掛けました。
ボールが自分のところに来なければ、大石くんのペアである菊丸くんは何もできません。実質的に地味'S VS 大石くんの、2対1の戦いになってしまいます。地味'Sのこの戦い方は、先述の「2人でプレーすることの強み」 を体現しているといえるでしょう。
しかし地味'Sの本当の狙いは、2対1という有利な状況でプレーすることではありません。相手ペアのフォーメーションを崩すことにあります。
自分の相方が集中攻撃されれば、ペアはサポートするために、無理にでもラリーに割り込もうとするはず。そうして無理な動きをすればフォーメーションが崩れ、地味'Sが打ち込めるオープンスペースが生まれる可能性が高まります。
つまり地味'Sにとって相手一人を集中攻撃すること自体が囮。もう一人のペアを誘き出して、攻撃する隙を作り出すための布石なのです。
もしペアがフォローに回らなかったとしても、一人を集中攻撃することで体力を消耗させることもできる……よく考えられた、巧みな戦術ですね。現実のダブルスでも、ここまで考えられたプレーができるペアは限られていると思います。
大石くんはこの集中攻撃戦法を、1年前に地味'Sと対戦した際にも食らっています。そのときは、大石くんが組んでいた先輩が集中攻撃され、大石くんがフリーになってしまう形に。心配性で気を遣うことの多い大石くんは、狙われた先輩を助けようと無理に動いた結果、自分たちのフォーメーションに穴を空けてしまいました。
そのまま地味'Sの攻撃を許すしてしまった大石くんと先輩のペアは敗北。この経験があったからこそ、翌年の大石くんは地味'Sの攻撃に対処できましたが、初見だったら地味'Sの思うがままになっていたかもしれません。
サインプレー
集中攻撃戦法を大石くんに看破され、「昨年と同じ技で倒せると思ったのかい?」という決め台詞まで言われた地味'S。
しかし全国まで進んだ地味'Sが、このまま終わるわけがありません。地味'Sにはもう1つの戦法がありました。それがサインプレーです。
前衛が後衛にハンドサインを出して、ポーチ(本来後衛の守備範囲に打たれたショットを前衛がボレーする)のタイミングや、アプローチのコースを指示。サインを受けた後衛は、前衛がポーチしやすいよう配球するという戦法に切り替えました。
実際に描写があったプレーとしては、サーブを打とうとしている東方くんに、南くんがネット際からサインを送るというもの。東方くんはサインを見て、190cm近い長身を生かしたスピードサーブを大石くんのバックサイドギリギリに叩き込みます。利き手と逆側であるバックサイドに来た強烈なサーブを強くリターンすることは難しく、返球が甘くなる。そこへ南くんがポーチに出るという一連の流れを、サインを駆使してやってのけました。
ここまで狙いすました動きができる中学生がいるのだろうか……高校生、いや長年ペアを組んできた大人でも難しいでしょう。
これほどまでに息のあったサインプレーを実行したのは、『テニスの王子様』でも地味'Sくらい。コンビネーションに関していえば、地味'Sは中学レベルを遥かに超えていると考えて良いでしょう。U-17日本代表合宿にも呼ばれてましたし。
関東・全国でも勝利している地味'S
ここまでに紹介してきたような戦法を駆使し、地味'Sは関東・全国大会でも山吹中の勝利に貢献しています。
地味に不動峰の石田・桜井ペアにも勝利しているのがすごい。特に石田くんは波動球の使い手で、パワープレーヤーでなければまともに返球できません。そんな相手にも勝っている地味'S。やはりあなどれない……ただ、石田くんは反動の大きい波動球の使用を橘さんに制限されているので、地味'Sとの試合では使わなかった可能性もありますが。
全国大会でも1回戦で聖イカロスのダブルス相手に勝利。やはり全国レベルのダブルスだけあって、しっかり勝ち星を上げています。残念なことに2回戦の名古屋星徳戦では負けていますが、山吹最強ダブルスの名に恥じない活躍をしたと思います。
ダブルスとしての強みを生かしているペアは強い
集中攻撃からのサインプレーという二段構え。地味'Sの強さはこういった細かい戦法がしっかり練られていることも含め、「2人で連携し、ペアとして戦うことを考えプレーしている」ということにあるでしょう。単に個人として強いプレーヤーが2人コートに入っているのではなく、2人で連携することを想定にプレーしている。2人でプレーすることで、1+1が3にも4にもなっている、理想的なダブルスの闘い方ができているといえます。
地味'Sに限らず、『テニスの王子様』の強いダブルスは、やはり2人で戦うことの意義をしっかり見出しているペアです。例えば大石・菊丸ゴールデンペアは、大石くんが守備を、菊丸くんが攻撃を担当し、攻守の役割分担をしてそれぞれの強みを活かしています。
また氷帝の宍戸・鳳ペアは、宍戸さんが俊足とカウンターライジングで安定したストローク戦を展開。安定感にはやや欠けるのの宍戸さんにはない一撃必殺のパワーを持つ鳳くんのネオスカッドサーブでサービスゲームをキープすることで、お互いの弱点を補い合っています。
つい派手な必殺技にばかりに注目してしまいがちですが、やはり地味'Sは地味に強いダブルスであり、全国レベルだったと考えるべきでしょう。